中東の空飛ぶ死神
現代戦で多く活用されている無人機のうち、特にアフガニスタン戦争・イラク戦争で戦果をあげたのがアメリカの「MQ-1プレデター」とその改良型である「MQ-9リーパー」です。
とりわけ後者は「空飛ぶ死神」の異名を持ち、対テロ戦に多く投入された一方、派生型の無人偵察機は日本の海上保安庁と海上自衛隊も使っています。
- 基本性能:MQ-9リーパー
全 長 | 11m |
全 幅 | 20m |
要 員 | 2名 |
速 度 | 時速482km |
航続距離 | 約6,000km |
滞空時間 | 最大28時間 |
高 度 | 約15,200m |
価 格 | 1機あたり約22〜30億円 |
そもそも「Reaper(リーパー)」という言葉自体が死神を指しており、2007年から運用されているMQ-9は、その原型となったMQ-1よりもひとまわり大きい無人攻撃機として登場しました。
プレデターより優れた速度・滞空時間を持つほか、両翼にはヘルファイア対戦車ミサイルやJDAM誘導爆弾、スティンガー対空ミサイルなど、さまざまな兵器を搭載できます。
また、後ろにプロペラを配置したことで、機首部分には通常カメラ、赤外線カメラ、レーザー誘導用の指示器、広域監視センサー、衛星通信アンテナなどを集約しました。
これら装備を使って広いエリアを連続監視しつつ、必要に応じてピンポイント攻撃を加えるのがリーパーの仕事です。
武装を搭載したMQ-9(出典:アメリカ空軍)
機体は前任者より大型化したとはいえ、同じく分解してC-130輸送機にも搭載できるため、その空輸性・機動展開性は維持されました。現地に運んで組み立てたあとは、アメリカ本土の誘導ステーションからパイロットとセンサー要員が遠隔操作します。
こうして安全なアメリカ本土から地球の裏側にいるテロリストを監視・攻撃できるわけですが、それは現実と乖離した状況をもたらしました。
「まるでゲーム感覚で戦争をしている」という感想が示すように、操縦者は感覚麻痺に陥るケースが多いようです。
朝出勤してターゲットの攻撃任務に従事したあと、夕食は家族とともに過ごすという生活はギャップが激しく、戦地に赴いていないにもかかわらず、当初はPTSDを発症する人が相次ぎました。
MQ-9の操縦シミュレーター(出典:アメリカ空軍)
このような問題点を抱えているとはいえ、プレデターよりも航続距離が長く、要員交代でそのまま連続飛行ができるため、偵察・監視はもちろん、いつ現れるか分からない標的の待ち伏せ攻撃に適していました。
実際のところ、タリバンやイスラム国の要人暗殺に多数使われており、2020年にはイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官まで暗殺しています。
しかし、こうした無人攻撃機は誤爆や巻き添え被害とは無縁でいられず、倫理的には難しい兵器であるのも事実です。
日本にも一時展開
MQ-9リーパーは中東での対テロ作戦によく投入されてきましたが、2022年には7機のMQ-9が海上自衛隊の鹿屋基地(鹿児島県)に一時展開しました。
わずか1年間の期限付き配備は、将来的に米軍の無人機を自衛隊基地に緊急展開させるための実験的要素を含んでおり、実現性や問題点を洗い出したと思われます。また、中東とは全く異なる環境や気象下で行われる洋上任務に使えるかを試すのも狙いでした。
海自・海保は「シーガーディアン」
海自基地に展開したおかげか、翌年の2023年からは海自もMQ-9シリーズの試験運用を始めました。
ただし、こちらはリーパーのような戦闘攻撃型ではなく、偵察監視向けの「MQ-9B シーガーディアン」という派生型になります。
大きな違いでいえば、MQ-9Bは広大な海を飛びつづけるべく、燃料タンクを拡張して連続滞空時間を35時間まで伸ばしました。また、海上監視レーダーに加えて、AISと呼ばれる船舶の自動識別装置を使って不審船や外国艦船を区別します。
さらに、高度4,000mからでも車を識別できる超精密カメラが搭載されていますが、これは要救助者のような小型対象も捉えるための装備です。
海保が導入したシーガーディアン(出典:海上保安庁)
じつは、MQ-9Bは海上保安庁の方が先に導入しており、2022年から八戸基地で運用してきました。
奇しくも、というよりは必然的に海自も八戸基地で試験運用しているわけですが、おかげで両者の連携がさらに進んでいます。
すでに航空自衛隊がグローバル・ホークを運用しているなか、海自と海保も負担の大きい長時間のパトロール任務を無人化させるのは自然な流れといえます。
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