重巡洋艦クラスの口径
陸上自衛隊のいろんな火砲のうち、最近まで運用されていたうえ、最大級の火力を持っていたのが「M110」203mm自走榴弾砲でした。
1950年代にアメリカが開発した大型自走砲ですが、日本では1984年に導入されて以降、北海道でロシアに対してにらみを利かせてきました。
- 基本性能:「M110A2」203mm自走榴弾砲
重 量 | 28.4t |
全 長 | 10.7m |
全 幅 | 3.15m |
全 高 | 3.15m |
乗 員 | 5名 |
速 度 | 時速54.7km |
行動範囲 | 約520km |
射 程 | 最大30km |
兵 装 | 203mm榴弾砲 ×1 |
価 格 | 1両あたり約3.5億円 |
陸自が使っていたのは「M110 A2」というタイプになり、長距離火力として計91両が調達されました。「サンダーボルト」の愛称を持ち、その大迫力は富士総合火力演習で多くの観客を湧かせてきました。
口径だけでいえば、それは重巡洋艦の主砲に等しく、毎分1.5発の速さで重さ90kgの砲弾を撃てました。射撃準備の時間をふまえると、現代砲兵戦の「シュート・アンド・スクート戦術」(すばやく撃ち、すぐ逃げる)には適していないものの、敵の陣地や建物、車両などをそのまま吹き飛ばせました。
同じ口径の大砲はロシア=ウクライナ戦争でも使われており、機動力不足で損害を受けながらも、その火力は絶大な威力を発揮してきました。

単体での機動性は悪いとはいえ、陸自の203mm自走砲は輸送機で運ぶべく、その全高は「3m弱」という低さに抑えられました。
これは車体を発見しづらくするとともに、被弾率を下げる狙いもありましたが、代わりに乗員はさらされた状態で操作せざるをえず、装甲化された99式自走砲と比べて生存性は見込めません。
機動力不足で陳腐化
まさに「大砲」を体現したような存在とはいえ、アメリカではとうの昔にHIMARS高機動ロケット砲などが取って代わり、陸自でも長らく第1特科団(北海道)のみが配備していました。
その後、2024年3月には全門退役になり、後任には19式装輪自走榴弾砲、配備予定の長射程対地ミサイルが就く予定です。
203mmの大火力が消えるのは惜しいですが、すばやい陣地変換が難しい以上、現代砲兵戦では狩られやすいといえます。しかも、203mm弾は兵站上の負担が大きく、精密攻撃も行えるロケット弾の方が合理的です。
結局のところ、大火力も高機動・コンパクト化の流れには抗えず、その陳腐化は避けられませんでした。

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