ステルス性はF-35戦闘機より上
高性能なステルス戦闘機のなかで、世界的ベストセラーになりつつあるのがアメリカのF-35ライトニングⅡで、日本を含む同盟国・友好国で次々と導入されています。どころが、このF-35戦闘機として次期戦闘機の座を争った機体がいたのをご存知でしょうか?
それが、ボーイング社が開発した「X-32」という航空機で、実証機として通常型の「X-32A」と短距離離陸・垂直着陸型の「X-32B」が作られました。
- 基本性能:X-32A(試作機のみ)
全 長 | 13.72 m |
全 幅 | 10.97 m |
全 高 | 5.28 m |
乗 員 | 1名 |
速 度 | マッハ1.6(時速1,950km) |
航続距離 | 約1,500km |
高 度 | 約15,000m |
兵 装 | 20mmバルカン砲×1(固定) 空対空ミサイルなど |
F-16戦闘機やF/A-18戦闘機などの後継となる「統合打撃戦闘機(JSF)」を目指したX-32は、アゴと言われる機体下部の空気取入れ口が特徴的です。
これは垂直離着陸時に大量の空気を取り入れるために設けられたものの、当時の技術的限界から大きく膨らんだ形となり、なんとなく「ダサかわいい」という印象を受けます。
少し不恰好なX-32ですが、見た目に反して速度とステルス性は良好であり、これらの点ではライバル「X-35(のちのF-35)」より優れていました。しかし、2001年に行われた比較試験でX-35に敗北した結果、X-32は量産されることなく、その役目を静かに終えました。
敗因は出力低下の問題と整備性
では、X-32が敗れた原因は何だったのか?
まず、言われているのが、垂直離着陸時にエンジンが高温の排気熱を吸い込んでしまい、出力低下とオーバーヒートを招いてしまう欠点。
対策として低温の空気を出す装置が付けられたものの、これは根本的解決にはならず、かえってエンジン構造を複雑化させて整備性を損ねました。
一方、X-35は評価試験で垂直離着陸を問題なくこなし、高い信頼性を示しました。
ほかにも、X-32は設計的に広いウェポン・ベイ(兵器倉)を設置できず、兵器搭載量でX-35に劣るとされました。とはいえ、勝敗を分けた直接的な要因はやはりエンジンの出力低下問題でしょう。これを最後まで解決できなかったことでX-32の命運は尽きたといえます。
別の最終案があった?
最近になって出てきた興味深い話に、X-32には別の最終案があったというのがあります。
実はボーイング社が用意していた最終案では特徴的な「あご」はなくなり、現在のF-35戦闘機に近いもっとスマートな機体になっていたそうです。
ボーイング社としてはステルス重視のデザインで高評価を獲得して、最終案で量産機のイメージを出すつもりだったようですが、これに対してX-35を手がけたロッキード社は初めから最終案に近いデザインを採用しました。
つまり、X-35の方が試験段階でその後の「量産」をイメージしやすく、鈍重そうなX-32よりも高い機動性を連想させることから「ウケ」が良かったのです。
ボーイング社が最初から最終案で挑んでいたら、もしかすると評価が変わっていたかもしれません。
F-35に敗れたX-32は、F-22ラプターに負けた「YF-23」と同様に幻のステルス戦闘機となり、現在はオハイオ州の国立空軍博物館に「X-32A」が、メリーランド州の海軍航空博物館に「X-35B」がそれぞれ保管・展示されています。
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