ミサイル役を担ってきた
現代海戦ではミサイルが飛び交い、水上艦艇は対艦ミサイルから身を守るべく、いろんな防空兵器を使わねばなりません。
それゆえ、海上自衛隊の護衛艦も訓練を通して、対空戦闘の技量を磨くわけですが、安全性や予算の関係から、実弾を使える機会はそう多くありません。
イメージ・トレーニングが中心になり、画面上で模擬戦を展開するなか、対艦ミサイル役を務める航空機がありました。それが「U-36A」という多用途訓練支援機であって、ミサイルのように飛行しながら、なるべく実戦に近い状況をつくります。
- 基本性能:U-36A訓練支援機
全 長 | 14.83m |
全 幅 | 12m |
全 高 | 3.73m |
乗 員 | 4名 |
速 度 | 時速960km |
航続距離 | 約3,900km |
高 度 | 約13,000m |
装 備 | 誘導センサー(模擬) チャフ発射装置 電波妨害装置 カメラ・ポッド |
U-36Aはアメリカのビジネスジェットに基づき、訓練支援機に改造されたうえで、1987年に6機が調達されました。
訓練で標的役を果たすべく、巡航ミサイルに近いマッハ0.78の速度を誇り、遠くからでも識別しやすいように、オレンジと黄色の派手な塗装が特徴的でした。
小型ジェット機の機動性を活かして、ミサイルの複雑な動きを真似るとともに、模擬センサーで誘導機能まで再現しました。翼の先に取りつけることで、レーダー電波から赤外線タイプなど、3つの誘導方式が再現可能になり、まさに「飽きない」訓練で相手を鍛えます。
一方、その活躍ぶりは通常の訓練にとどまらず、実弾演習では標的をワイヤーで曳航しながら、実戦に即した訓練環境を提供してきました。
こうして対艦ミサイルになりきり、対空戦闘訓練を支えてきたとはいえ、その能力は電子戦訓練でも役立ちました。というのも、U-36Aは電子戦機能を持ち、妨害用のチャフ(小さなアルミ片)を散布したり、妨害電波で相手をジャミングできます。
なお、一連の訓練状況を記録するために、右側の翼にはカメラ・ポッドを備えており、後日の分析・評価には欠かせません。
組織改編・人員整理で廃止に
ポッドさえ換装すれば、電子戦訓練や標的曳航を行えたため、訓練支援機としては使い勝手よく、長らく海自の練度向上に貢献してきました。
しかし、昨今は自衛隊全体で部隊改編が進み、U-36Aは見直しの対象になってしまい、2025年に退役となりました。宇宙やサイバー、ドローンで人手がいるなか、どこか既存部隊を減らさねばならず、結果的にU-36Aも目をつけられた形です。
廃止されたU-36A(出典:海上自衛隊)
その代替には無人機、または別の訓練支援機をあてがい、余剰人員を他にふり向けると思われます。たしかに、電波妨害や標的曳航などはU-36Aに限らず、P-3C哨戒機を改造した「UP-3D」でも可能なほか、ミサイルの動きは無人標的機が務められるでしょう。
レア機体がなくなるのは残念ですが、防衛予算こそ増えたものの、肝心の人員増加が見込めない以上、こればかりは仕方ありません。

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