日々の訓練を支える重要なサポート役
海上自衛隊には護衛艦や潜水艦で構成される主力部隊を支える「縁の下の力持ち」が多数所属しています。その一つが訓練支援艦と呼ばれる船で、主に対空射撃訓練で使う無人標的機を管制するのが役割です。どんな高性能な軍艦も訓練を通じた技量向上なしでは戦力にはなり得ないため、こうした訓練をしっかりサポートする支援艦の存在は貴重と言えます。
⚪︎基本性能:訓練支援艦「くろべ」「てんりゅう」
くろべ | てんりゅう | |
排水量 (基準) | 2,200t | 2,450t |
全 長 | 100.5m | 106m |
全 幅 | 16.5m | 16.5m |
乗 員 | 155名 | 140名 |
速 力 | 20ノット (時速37km) | 22ノット (時速40.7km) |
兵 装 | 62口径73mm速射砲×1 | 62口径73mm速射砲×1 |
装 備 | 無人標的機×8機 標的機管制装置 ミサイル評価装置 | 無人標的機×8機 標的機管制装置 ミサイル評価装置 |
価 格 | 約110億円 | 約120億円 |
海上自衛隊における訓練支援艦の運用史は意外と長く、初代「あづま」は世界的に見ても珍しい訓練支援の「専用艦」として1969年に就役しました。その「あづま」の老朽化を受けて、1989年に「くろべ」、2000年に「てんりゅう」が後継として登場します。
両艦ともほぼ同じ大きさかつ見た目も似ており、装備面でも大差はありません。ただ、「てんりゅう」の方が居住性やエンジン主力で優れており、「くろべ」と比べて女性自衛官の乗艦も考慮した設計となっています。

どちらも訓練時に無人標的機を発射、操ることで護衛艦の対空戦闘能力を向上させるのが役割であり、そのための管制機能と分析・評価装置を備えています。無人機は大型の「BQM-34J ファイアービー」と小型の「BQM-74E チャカIII」をそれぞれ4機搭載しており、訓練時にはランチャーを使って遠隔操作で発射したのち、戦闘指揮所(CIC)から管制・操作します。連続発射と複数機の同時管制が可能なので、訓練に参加する艦艇は同時対処能力を試すこともできます。
無人標的機は最大時速1,000km超を誇り、対艦ミサイル役としては申し分ない性能を発揮しますが、値段は1機あたり数千万円とかなり高額です。そのため、標的機を迎え撃つ護衛艦は模擬弾を発射して「撃墜」するのですが、その際、直撃はさせずにギリギリで回避するそうです。あくまで再利用することが前提の高価な標的なのです。

迎撃の様子は訓練支援艦のミサイル評価装置を使って詳しく分析・評価され、参加艦艇の実力を測ったうえで改善点を洗い出すことで、その後の能力向上につなげられます。一方、無人標的機は訓練終了後、パラシュートを開いて海上に着水し、母艦に設置されたクレーンを使って引き揚げられます。回収された標的機は分解された後に洗浄され、次回の訓練に向けて整備されます。
ちなみに、「くろべ」と「てんりゅう」はともに73mm速射砲を搭載していますが、これは万が一、無人標的機がコントロール不能に陥った場合に撃墜するため。それ以外の兵装はなく、2隻ともあくまで「縁の下の力持ち」として非戦闘任務に従事します。有事の際も前線に投入されることはありませんが、災害派遣では他の艦艇と同様に救援や物資搬送の任務に従事してきました。
このように日々の訓練や災害派遣を支える訓練支援艦ですが、2027年度までに退役する見込みとなっており、後継艦は建造されないようです。そのため、無人標的機の運用および評価システムを簡素化することで支援艦以外でも使えるようにするか、訓練支援業務そのものを民間に委託するなどが考えられます。
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