訓練支援から救難任務までこなす
基準排水量980トンと小さい船ながら、海上自衛隊の主要基地5箇所に必ず配備されている「多用途支援艦」と呼ばれる存在があります。
名前から推測できるように、様々な用途で使われるいわば多目的船ですが、その任務は訓練標的の曳航から消火活動までの多岐にわたります。
⚪︎基本性能:ひうち型多用途支援艦
排水量 | 980t (基準) |
全 長 | 65m |
全 幅 | 12m |
乗 員 | 40〜45名 |
速 力 | 15ノット(時速28km) |
兵 装 | なし |
装 備 | 消防装置 曳航装置 水上標的管制装置 魚雷回収装置 |
価 格 | 1隻あたり約億円 |
護衛艦や潜水艦の活動を支える艦艇はたくさんありますが、その中で特に「多才多芸」で知られるのが「ひうち型」多用途支援艦です。
「ひうち型」は各種射撃訓練における支援を主な任務としますが、具体的には標的艦の曳航や自走式水上標的の管制を行います。
ちなみに、対空射撃の目標となる無人標的機の運用は訓練支援艦「くろべ」「てんりゅう」が担うため、多用途支援艦は対水上戦闘用の標的を担当する感じで棲み分けているようです。
しかし、訓練支援艦とは異なり、多用途支援艦は訓練の分析・評価機能を有していません。
大きさ7mほどの無人ボートである自走式水上標的は、最高速力36ノット(時速65km)を出せるため、訓練する側は高速目標への射撃練習を行えます。ただし、使い捨て装備ではないので、実際の訓練では標的そのものには当てず、わざと10〜15m外すそうです(逆に難しい気がしますが)。

一方、標的艦は老朽化した元・護衛艦などを使いますが、自身よりもはるかに大きい艦を曳航することから、多用途支援艦は980トンの船体の割には大出力のエンジン馬力を誇ります。
その力は1万トン超えの船すら単艦で曳航できるほどで、航行不能に陥った僚艦を助けたり、物資や貨物の輸送時などに役立ちます。実際、2011年の東日本大震災における原発事故では、冷却用の真水を満載した大きな艀を曳航して危機的状況の改善に貢献しました。
馬力のある小さな船だからこそ、漁港などの小規模港湾にも容易に展開できますが、この特徴は大型港がない離島への派遣や活動拠点が限られる災害時にかなり重宝されます。
また、入港から接岸まで単独で行い、設置された大型クレーンを使って物資や車両まで搭載・揚陸できることから、災害派遣任務に従事する船としては「超有能」なのです。
このように訓練支援から災害派遣に至るまであらゆる場面で真価を発揮する多用途支援艦ですが、その役割を一覧にまとめると以下のようになります。
訓練支援 | 水上標的の曳航と管制 |
救難活動 | 航行不能な僚艦の曳航など |
消防活動 | 放水銃を使った船舶火災などの消火 |
輸送活動 | 物資や車両の搭載、輸送、揚陸 |
装備試験 | 洋上試験でん新装備の搭載、管制 |
各基地に配備されたマルチ能力の船
さまざまな任務をこなせるマルチ能力の「ひうち型」ですが、その使い勝手の良さがゆえに、海上自衛隊の主要基地に1隻ずつ配備できるように計5隻が建造されました。
同型艦であるため、5隻に大きな違いはありませんが、4番艦「げんかい」と5番艦「えんしゅう」は他の3隻とは少し異なる以下の特徴があります。
・2丁の12.7mm機関銃を搭載
・潜水艦に対する訓練支援用の水中電話機の搭載
・航行時の揺れを減らすタンク(減揺タンク)の設置
しかし、本質的な能力では5隻に大差はなく、どれも訓練支援から救難・消火活動に至るまでの多様な任務に従事できます。
1番艦「ひうち」は就役から20年が経ちますが、まだまだ現役でマルチ能力を発揮できる余裕があることから後継艦の話は特に出ていません。今後も、海自の縁の下の力持ち部隊の中核として引き続き活躍するでしょう。
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