二重弾頭がもたらす対地攻撃力
ロシア=ウクライナ戦争でウクライナ側を支援する西側諸国は各種要請に対してあくまで段階的な供与を行ってきましたが、積極的なイギリスが空中発射型の「ストーム・シャドウ」を提供したおかげで、長距離ミサイルの供与が解禁されました。
こうした状況のなか、ドイツも自国の「KEPD350 タウルス巡航ミサイル」を提供する見通しで、反攻に向けた攻撃力の確保により一層の弾みがつく形です。
⚪︎基本性能:KEPD350 タウルス巡航ミサイル
重 量 | 1,400kg |
全 長 | 5m |
直 径 | 1.015m |
速 度 | マッハ0.95(時速1,170km) |
射 程 | 500km以上 |
価 格 | 1発あたり約1.4億円 |
軍事支援のレベルを漸進的に高めてきた欧米諸国は戦闘機で運用する兵器として対レーダー用の「AGM-88 HARM」やGPS誘導爆弾の「JDAM」は与えていたものの、ロシア本土も射程に収める長距離ミサイルの供与には長らく慎重姿勢を崩しませんでした。
しかし、領土奪還に向けた反攻作戦には長距離兵器が必要で、主力戦車の時と同様にイギリスが先陣を切ることで支援レベルが一段階が上がりました。
イギリスに続くドイツはスウェーデンと共同開発したタウルス巡航ミサイルを出す予定ですが、これは一定のステルス性と500km以上の射程距離を持ち、480kgの弾頭は二段構えによって堅牢な地下陣地も破壊する貫通能力を誇ります。
そのため、主に司令部や弾薬庫のような後方の重要施設に対する攻撃に向いていて、実戦投入されたらロシア軍の安全圏がさらに消えるわけです。

また、あらかじめ目標位置と飛行経路が入力されたタウルスは赤外線画像や地形照合能力などを用いることでGPS誘導なしでも低空飛行でき、誤爆リスクが高い場合は指定地点にあえて墜落して被害を回避します。
このように空中発射型の対地ミサイルとして申し分ないタウルスをスペインと韓国がそれぞれF/A-18戦闘機とF-15K戦闘機用に購入した一方、共同開発者のスウェーデンは導入していません。
ただ、スウェーデンの主力戦闘機であるサーブ39 グリペンでの運用は実証済みで、もしグリペンがウクライナに供与されたらタウルスをそのまま使えるという利点があります。
むろん、改修すればストーム・シャドウと同じようにウクライナ空軍の既存機でも運用できるうえ、供与予定のF-16戦闘機への搭載も視野に入れていると思われます。
タウルスを含む長距離ミサイルの供与はレオパルト2戦車、F-16戦闘機とともに「本命」がほとんど出揃ったことを意味し、あとはHIMARS高機動ロケット砲から放てる短距離弾道弾の「ATACMS」が残るのみ。
しかし、長射程の対地ミサイルを手に入れた結果、ウクライナにとってはATACMSの必要性が少し薄れた一方、アメリカが供与するためのハードルはなくなったに等しく、遅かれ早かれゴーサインを出すでしょう。
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