WW2で活躍した戦車キラーの子孫
戦車などの装甲車輌が一気に進化した第二次世界大戦は、歩兵が戦車を倒すための兵器開発が進められた時期でもありました。こうした対戦車兵器の黎明期において、特に多用されたのがあの有名なドイツの「パンツァーファウスト」であり、大戦末期になっても多数のソ連軍戦車を撃破し続けました。
歩兵が1人で簡単に操作できる割には高威力のパンツァーファウストは、その有効性から戦後も後継が開発されて現在は「パンツァーファウスト3」が本家ドイツ、そして日本の自衛隊でも使われています。
⚪︎基本性能:パンツァーファウスト3(110mm個人携帯対戦車弾)
重 量 | 13.9kg |
全 長 | 1.4m |
口 径 | 60mm |
弾頭口径 | 110mm |
発射速度 | 秒速115m |
有効射程 | 移動目標:300m 静止目標:400m |
価 格 | 約150万円? 対戦車弾は1発あたり約3万円 |
パンツァーファウスト3は西ドイツが開発した対戦車兵器であり、ロケットブースターが付いた対戦車弾を発射しますが、その際に後ろに金属粉を打ち出して反動を相殺するので無反動砲の一種とも言えます。
射撃装置である本体に弾頭を装着した後、照準器で狙いを定めてから撃ちますが、発射された弾はロケットモーターに点火して加速しながら目標に向かいます。命中率は300mで90%と言われていますが、ウクライナで活躍したジャベリン対戦車ミサイルのような長射程を持つわけではなく、あくまで短・中距離攻撃用の兵器なので主に待ち伏せ攻撃で使用されます。

通常は成形炸薬弾を使用しますが、これは弾頭の先端には「プローブ」と呼ばれる信管が付いており、対戦車の場合はプローブを伸ばし、建物のような目標を狙う時は逆に収納します。他にも爆発反応装甲に対応した二重弾頭(詳しくはジャベリンの記事を参照)や陣地のような固定目標を破壊するための専用弾など多岐にわたる弾を撃つことができます。
気になる威力についてですが、貫通力は700mmとされていることから現代における主要戦車は撃破可能であり、その他車両にも致命的なダメージを与えられます。特に110mmという大型弾頭が持つ威力は高く、装甲の薄い部分に直撃すれば陸の王者たる戦車といえどもひとたまりもありません。

実際、ロシアによる侵略を受けているウクライナではドイツやオランダから供与された1,500基近いパンツァーファウスト3が投入されており、多数のロシア戦車の撃破に成功しています。初代パンツァーファウストがソ連戦車を相手に活躍したことを考えると、80年近い時を経て同じ地で再びソ連製戦車を多数撃破しているのは歴史の皮肉かもしれません。
また、有効射程は移動目標に対しては300m、静止目標ならば400m程度ですが、レーザー測定を行うDynarange(ダイナレンジ)と呼ばれる電子照準器を使えば最大600mまで伸びます。ただし、最大射程は920mであり、これを超えるとロケット弾そのものが自爆する仕組みになっているそうです。
自衛隊では「110mm個人携帯対戦車弾」と呼ぶ
パンツァーファウスト3はドイツで開発されましたが、実は最初の輸出先は日本の陸上自衛隊であり、1989年に「110mm個人携帯対戦車弾」の名前で導入しています。これはカールグスタフを84mm無反動砲として調達したのと同じですが、部隊では軽対装甲弾を意味する「LAM(ラム)」と呼ぶそうです。
面白いことに、弾頭が使い捨てのLAMは自衛隊ではあくまで「弾薬」に分類しており、運用する隊員は本砲に加えて小銃も持たないといけません。ちなみに、訓練では青い演習弾の他に縮射弾と呼ばれる小さな訓練弾を用いますが、これは自衛隊公式とは思えないユルさで人気の第7普通科連隊のYoutubeでも詳しく説明されているので良ければどうぞ。
自衛隊の普通科では1個小銃班(10名ほど)に1本が装備されると言われており、そう考えると自衛隊全体ではかなりの数のパンツァーファウスト3を保有していることが伺えます。84mm無反動砲や和製ジャベリンと称される01式軽対戦車誘導弾とともに最前線部隊の打撃力を支えているのです。
さて、ドイツと日本を含めて10ヵ国が運用しているパンツァーファウスト3ですが、一部ではドイツ・シンガポール・イスラエルが共同開発した対戦車兵器「MATADOR」を後継装備として更新しているようですが、前述のDynarange照準器のようにまだ改良を施す余地があり、今回のウクライナでの戦果も踏まえてしばらくは使われ続けるでしょう。
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