ウクライナが短期開発したミサイル
ロシア=ウクライナ戦争は2022年2月に始まったものの、両国は2014年のクリミア侵攻から事実上の戦闘状態にありました。戦略的要衝のクリミア半島をほぼ無血占領されたウクライナは、軍の改革を急ぐとともに、装備の近代化・国産化にも注力します。
こうして生まれた兵器のひとつが国産の対艦巡航ミサイル「ネプチューン」であり、黒海方面の海上戦力で劣るウクライナ海軍の切り札として期待されました。
⚪︎基本性能:R-360 ネプチューン対艦ミサイル
重 量 | 870kg |
全 長 | 5.05m |
直 径 | 0.38m |
弾 頭 | 150kg |
速 度 | 時速900km |
射 程 | 約300km |
価 格 | 1セットあたり約60億円 |
短期間で開発された「ネプチューン」は、旧ソ連の対艦ミサイル「Kh-35」をベースに電子機器や射程距離を大幅改良したものです。
クリミア侵攻から約2年後の2016年には試作品のテストが実施され、数度の性能評価を繰り返した後に、最初の量産品が2021年にウクライナ海軍に納入されました。
ミサイル自体はあの有名な「ハープーン・ミサイル」と同じ亜音速の巡航ミサイルで、5,000トン規模の水上艦艇を撃破する目的で作られました。
そして、システム全体はトラックに載せた4連装の発射機、指揮統制車両、捜索レーダー、再装填用の車両などで構成されていて、このあたりは陸上自衛隊の12式地対艦ミサイルに似ています。
射程距離は最大300kmとみられており、沿岸から約25km離れた内陸部まで展開可能です。発射後はミサイル自身のレーダーで目標を捉えつつ、海面から5〜10mという超低空飛行をしながら迫ります。
巡洋艦「モスクワ」撃沈で示した性能
地対艦ミサイルとしては特に秀でいているわけではなく、ある意味「堅実な兵器」なのですが、その信頼性を世界に示したのがミサイル巡洋艦「モスクワ」の撃沈です。
ロシア海軍が誇るミサイル巡洋艦「モスクワ」はロシア=ウクライナ戦争時には就役から40年が経過していたものの、1万トン超えの船体に多数の対艦・対空ミサイルを搭載することで黒海方面の海上・航空優勢を支えました。
また、陸軍主体のウクライナ侵攻において、この艦はロシア海軍の貴重な大型主力艦として、そして黒海艦隊旗艦として特別な存在でした。
一方、降伏勧告された守備隊の返答が話題となったズミイヌイ島を攻撃したのが「モスクワ」で、ウクライナにとっては「憎っくき仇」だったのです。
発射される「ネプチューン」(出典:ウクライナ軍)
そんな「モスクワ」は2022年4月にウクライナ側が放った2発の「ネプチューン」によって撃沈されて世界に衝撃を与えます。
悪天候のなか、ドローンで陽動しているスキを突いてミサイルを命中させたと言われてますが、いずれにせよ敵旗艦を沈めるという大戦果を挙げました。
第二次世界大戦以降に撃沈された最大の戦闘艦となった「モスクワ」ですが、その喪失は以下の影響をもたらしました。
(1)「モスクワ」が提供していた防空網の喪失
(2)ウクライナ沿岸部に対する脅威の低下
「モスクワ」が張っていた防空網の消滅によって、ウクライナ空軍の活動が容易となり、ウクライナ南部に対する上陸作戦の可能性も消えたので、戦力を他方面にふり向ける余裕が生まれました。
逆にロシア海軍は、黒海方面の象徴的存在が失われたのみならず、作戦能力の大幅低下と沿岸から300km圏内における行動制限を余儀なくされます。
さらに、この撃沈劇は一部で「もはや通用しない」と評されていた巡航ミサイルの価値を再浮上させる形となり、相手次第ではまだ十分に使えることを証明しました。
この有効性の再証明は、対中国を意識する日米や台湾にとっては参考になり、無人機や他のミサイルと組み合わせれば、比較的「遅い」とされる巡航ミサイルでも戦果を期待できます。
ちなみに、ネプチューンには対地攻撃能力を持つバージョンもあって、大型化にともなって射程は400km、弾頭は350kgへと強化されました。事前設定された目標を赤外線センサーで捉える対地攻撃型は、すでにロシア軍の高性能防空システム「S-400」を撃破する戦果も挙げています。
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