アメリカ宇宙軍のお仕事とは?

アメリカ軍
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空軍から独立した6つ目の「軍種」

「宇宙軍」と聞けばガンダムやスターウォーズの世界が思い浮かぶかもしれませんが、世界最強のアメリカには2019年に発足したアメリカ宇宙軍が実在します。陸・海・空・海兵隊・沿岸警備隊に続く6番目の軍隊として設立された宇宙軍は一体何をするのか?

⚪︎基本情報:アメリカ宇宙軍

設 立2019年12月20日
人 員8,400人
予 算2.2兆円(2022年度)
装 備人工衛星:70基以上
X-37宇宙船:2機
基 地14ヶ所

アメリカ宇宙軍は元々アメリカ空軍内にあった宇宙軍団を独立させた形で発足し、「ガーディアン」と呼ばれる所属隊員も訓練と移行期間を経た後に空軍から転籍しています。宇宙軍は70年以上ぶりに新設された「軍種」とはいえ、管轄としては空軍省の下に属する形となり、同じく独立した軍種である海兵隊が海軍省傘下にあるのと同じです。

また、経費節約と機能の重複を避けるために補給や基地運用では空軍の既存能力をそのまま活用する方針です。例えば、宇宙軍は現在6つの主要基地を含む14ヶ所の拠点で活動していますが、全てが既存の空軍施設であり、12ヶ所は名前を空軍基地から宇宙軍基地に変えました。このように既存のものを利用することで厳しい軍事予算の中にあっても組織の拡大を目指します。

まだ発足して日が浅い宇宙軍は既に8,400名の人員を抱えていますが、空軍からの移籍者に加えて新兵の募集も行うことで2024年には組織規模を1.5万人まで拡大させる予定。これに伴って予算も年々増額させるつもりですが、2022年度の時点で2兆円を突破しており、2023年度は2.5兆円超を要求する見込みです。ちなみに、4.5万人以上を抱える航空自衛隊の予算が1.25兆円なので出来たばかりの宇宙軍につぎ込まれるお金がいかに膨大かが分かりますね。

独特のデザインが特徴的な宇宙軍の制服(出典:アメリカ宇宙軍)

このように成長する一方の宇宙軍ですが、宇宙船を作る前にまずは足下の地盤固めから始めねばなりません。ロゴマークや制服の採用など基本的なところから着手し、軍隊に必須な階級も空軍のものを参考にしつつ、末端階級で新たに1〜4等の特技兵(スペシャリスト)を設けました。また、部隊について大まかに説明すると「宇宙作戦本部 – 宇宙作戦軍団 – 宇宙部隊(デルタ)」という割とシンプルな階層になっており、各デルタがそれぞれの基地で担当任務に従事することになります。こうして組織作りから始めている宇宙軍ですが、基本編成が完了するのは2024年以降であるため、本格的な運用はしばらく先になるでしょう。

宇宙領域での軍事活動を全て担当

気になる宇宙軍の役割ですが、宇宙に対する攻撃及び宇宙からの攻撃を防ぎ、アメリカの利益と安全を守ること。要するに軍事面における宇宙の全てを担うわけですが、具体的な仕事は衛星軌道を中心とする宇宙空間を監視して宇宙ゴミ(スペースデブリ)などの脅威を把握することです。

廃棄された人工衛星やその残骸で構成されるスペースデブリは衛星の打ち上げ数が増えるにつれて増加し、1cm以上のゴミはなんと70万個を越えるそうです。たかが1cmの金属片といえども、地球を周回するその速さは最高で時速28,000kmにも達するため、他の人工衛星に当たれば無事では済みません。したがって、宇宙軍は地上レーダーを使って宇宙を24時間体制で監視し、危険なスペースデブリと人工衛星の衝突回避に努めるのが主な仕事となります。

現代の軍隊にとって人工衛星による偵察や測定、通信は作戦を遂行するうえで必要不可欠であり、もし敵の攻撃でダウンしたら世界最強のアメリカ軍も一気に無力化されかねません。現代戦は衛星による偵察と警戒から始まり、戦闘中の高度な通信と精密誘導も人工衛星に頼りっぱなしであり、特に米中のような大国同士が戦端を開いた場合、自国の衛星を守れるかどうかがその後の戦局を大きく左右するでしょう。

また、最近は他国の人工衛星を攻撃する「キラー衛星」が密かに混じっているとされていますが、いざという時は奇襲攻撃を受けないようにあらかじめ特定しておく必要があります。特に中国やロシアはこれらキラー衛星を運用している疑いがあり、アームを伸ばして標的の衛星を物理的に壊したり、電磁波を照射して機能不全に陥れるそうです。こうした衛星軌道上での攻防戦や電子戦も宇宙軍の仕事であり、実際に担当する宇宙部隊(デルタ)が存在します。

他にも対衛星ミサイルや弾道ミサイルの発射をいち早く察知するミサイル警戒部隊、自国の偵察衛星を使って情報収集を行うインテリジェンス部隊などがありますが、これらを含む宇宙活動全般に欠かせない70基以上の軍事衛星も宇宙軍の管轄下で運用されています。既に「宇宙の平和利用」が形骸化し、宇宙もサイバーと同様の戦闘空間として認識されつつある中、宇宙での優位性をいかに確保するかが喫緊の課題なのです。

宇宙軍の「船」は意外に地味?

ここで気になるのが「海軍が艦艇を保有しているように宇宙軍も宇宙船を持っているのか」という疑問。

実はボーイング社が開発した「X-37B」という無人宇宙船を2機運用しており、衛星軌道上での長期間飛行と大気圏再突入の実験に使われています。再利用を前提に作られたこの宇宙船は270日間以上の宇宙飛行が可能ですが、既に1号機と2号機を合わせて計5回の実験に投入されており、1号機に至っては2022年11月に908日間もの飛行を終えて帰還するという新記録を樹立しました。

宇宙軍が保有する宇宙船X-37B(出典:アメリカ宇宙軍)

これら実験で得られたデータは次世代宇宙船を開発する際に用いられるようですが、宇宙で具体的に何をしているのかは秘密のベールに包まれている状態です。一応、宇宙空間における太陽光発電で得られたエネルギーを地上に送る実験など一部は公表されましたが、それでも活動内容の大半は謎のままであり、中国やロシアからは「宇宙での攻撃能力を研究している」との疑惑の声が上がっています。

中露が指摘するようなX-37Bの武装型が登場する可能性は否定できないものの、そもそも同船の搭載量は兵器として使うには小さく、宇宙からの攻撃に有翼の再利用型宇宙船を使うメリットも少ないように思えます。ただ、あえて「兵器」という観点で宇宙軍を見るならば、中露と同様にキラー衛星を秘密裏に運用しているかもしれません。

よく想像される宇宙船とは異なる機体を運用し、割と地味な任務に従事する現実世界の宇宙軍の役割は今後ますます重要となる見通しで、優位性確保に向けて同盟諸国との連携も進めていく予定です。当然ながら、この中には日本も含まれており、航空自衛隊の宇宙作戦隊との協力も深化していく一方でしょう。空自の宇宙作戦隊もアメリカ宇宙軍同様に地上レーダーを用いた監視任務に従事しますが、やはり規模と運用能力ではアメリカが一歩も二歩も先を歩んでいます。

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