冷戦期に一時復活した戦艦
航空機やミサイルの本格登場とともに過去の遺物となった「戦艦」は、「強さ」を分かりやすく体現した船であることから、今でもロマンあふれる存在といえます。かつては大艦巨砲主義の象徴として、一国の海軍力を示す兵器として、現代の核兵器に匹敵するものでした。
海から消えて久しい艦種ですが、1980年代にはアメリカが第二次世界大戦期の戦艦を一時復活させるなど、使い道が完全になくなったわけではありません。
このときは4隻の「アイオワ級」が近代化改修されて再就役しましたが、自慢の40.6cm主砲に加えて、16発のハープーン対艦ミサイルと対地用に32発のトマホーク巡航ミサイルが新たに搭載されたことで、攻撃力が飛躍的に増しました。
単艦で圧倒的攻撃力を獲得した「アイオワ級」は、湾岸戦争ではイラク軍の地上施設を艦砲射撃とミサイル攻撃で破壊し尽くし、本来の大火力を改めて発揮しました。
また、巨大な船体が放つ「存在感」そのものが味方に安心感を与える一方、敵を威圧する効果がありました。そのため、護衛や牽制には小さな駆逐艦よりも大きな戦艦の方が心理的効果が期待できました。
利点は装甲と火力、弱点はコスト
湾岸戦争という現代戦でも活躍した「アイオワ級」戦艦ですが、冷戦終結後の軍縮で再び退役となり、現在は4隻とも記念館としてアメリカ各地で展示されています。
ちなみに、4隻のうち2隻はアメリカ海軍の予備艦隊の一員として、再整備次第で現役復帰できるそうです。
では、実際に戦艦が再び活用される日が来るのか?
ここで戦艦が持つ長所と短所を整理すると以下のようになります。
- 長所
・厚い装甲による防御力
・主砲がもたらす大火力
・巨大船体を活かした装備の搭載 - 短所
・大きさ的に洋上機動ができず、単艦運用が難しい
・多数の乗組員と膨大な維持費
・主砲に使われている技術がすでに途絶えている
・主砲の射程は短く、敵の射程内に接近する必要
このような点から考えると、戦艦が活躍できるのは航空優勢下での艦砲射撃ぐらいで、費用対効果的にはコストに見合わないのです。
まず、ペラペラ装甲の現代艦船と比べて「アイオワ級」は最も厚い箇所で439mmという厚さを誇り、ミサイルや魚雷に対する防御力は期待できます。しかし、機動性の悪さから対潜、対空戦闘には不向きで、空母のように護衛艦が随伴せねばなりません。
一方、自慢の巨砲は砲兵師団を優に超える火力を持ち、安価な砲弾を広範囲に叩き込めることから対地攻撃任務では極めて有用な兵器です。
よって、今でも上陸作戦の支援には役立つものの、対地ミサイルやJDAMのような誘導爆弾を使えば、より遠くからの精密攻撃が可能です。さらに、火力では劣っても、現代艦船の主砲はロケット補助による長射程誘導弾も撃てます。
改修して多数のミサイルを装備する手もありますが、老朽化した船の改造にお金をかけるぐらいならば、新たに建造した方が合理的です。
とはいえ、新造するにしても、動かすのに1,500名以上が必要な戦艦よりも300名で済むイージス艦を選択するでしょう。同じ人員とコストで5隻も運用できるうえ、使い勝手もいいわけですから。
まとめると、戦艦にしかない長所は確かにありますが、現在はその運用コストと期待効果が全く釣り合っておらず、持つだけ無駄な兵器となりました。したがって、レーダーを無効化する「ミノフスキー粒子(ガンダム世界)」でも登場しない限り、戦艦が復活する可能性はほとんどありません。
無理やり復活させても、その役割は上陸支援用の艦砲射撃と敵への示威行為、あとは観艦式で威容を見せつけるぐらいでしょう。
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