もはやミサイルと変わらない「自爆型ドローン」
もはや当たり前の存在になりつつあるドローン(無人機)ですが、軍事面でもグローバル・ホークのように長時間の警戒監視任務に投入したり、2022年に発生したロシア=ウクライナ戦争でも両陣営が敵情偵察や火砲の着弾観測に用いています。また、MQ-9リーパーのように敵に対してミサイルを放つ無人攻撃機も運用されていますが、この攻撃型をミサイルの母機としてではなく、無人機自体をミサイル化したのが「自爆型ドローン」です。
別名「カミカゼ・ドローン」とも呼ばれるこのタイプですが、実は同じ自爆型でも遠隔操作型やGPS誘導を使ったプログラム飛行型などいくつかの種類に分かれていますが、後者についてはトマホークのような巡航ミサイルとあまり変わりません。したがって、巡航ミサイルと自爆型ドローンの明確な違いは「プロペラの有無」ぐらいでしょうか。
そんな自爆型ドローンは最近の紛争・戦争によく登場しますが、2020年のナゴルノ=カラバフ紛争ではアゼルバイジャン軍がイスラエル製自爆型ドローンを使ってアルメニア軍の防空陣地を多数破壊しており、戦局をアゼルバイジャン側の優位に導いたと言われました。
また、2022年のロシア=ウクライナ戦争でも自爆型ドローンは投入され、ロシアはイラン製ドローンでウクライナの首都キーウを空爆(ほとんど無差別攻撃)した一方、ウクライナ側はアメリカから提供された「スイッチブレード」なるドローンを運用しています。今回はウクライナに供与されたことで一躍有名となったスイッチブレードについて見ていきましょう。
対テロ戦争のために作られた「飛び出しナイフ」
まず、スイッチブレードは元々はアメリカ陸軍向けにエアロヴァイロンメント社(米)が開発した自爆型ドローンであり、遠隔操作によって目標に突っ込んで爆発するタイプです。「飛び出しナイフ」の名を持つこのドローンは「スイッチブレード300」と「スイッチブレード600」の2種類があり、前者は対人攻撃用、後者は戦車などの装甲車両を狙うために用いられます(厳密に言えば、偵察用・非武装型の「ブラックウィング」も存在する)。
⚪︎基本性能:スイッチブレード300/600
スイッチブレード300 | スイッチブレード600 | |
重 量 | 2.5kg | 54.5kg |
全 長 | 49.5cm | 130cm |
全 幅 | 7.6cm | 15cm |
速 度 | 時速160km | 時速185km |
航続距離 | 10kmもしくは15分間 | 40kmもしくは40分間 |
価 格 | 1機あたり約60万円 | 1機あたり約100万円 |
まず、スイッチブレードは小型で対人用のスイッチブレード300が先に登場しましたが、元々はアフガニスタン戦争でタリバンの待ち伏せ攻撃に苦しむ米軍のニーズを汲んで、時間のかかる航空支援よりも即応性が高く、持ち運びできる「現場の簡易航空機」として開発されました。スイッチブレードは迫撃砲のような発射筒から圧縮空気を使って飛び出した後、兵士がコントローラーで遠隔操作しますが、電動モーターで飛行するので騒音が比較的小さく、敵に気付かれにくいのが特徴です。
また、機首のカメラを通じてリアルタイム映像が見られるため、最前線で活動する兵士にとってはその場で展開して上空からの警戒や偵察を行い、敵を発見したら攻撃もできる便利なアイテムと言えます。このように、低コストで携行可能な「お手軽・航空戦力」がコンセプトのスイッチブレード300は対人攻撃には十分な手榴弾級の威力を持つ弾頭を搭載していますが、爆発時のエネルギーを前方に集中させることで周囲の巻き添えを回避する設計となっています。さらに、最後まで人間が操作するので直前での攻撃中止など柔軟な対応が可能であり、同じ対人攻撃に使われるヘルファイア対戦車ミサイルよりも民間人の巻き添え被害を抑えることができます。

対テロ戦争を見据えて作られたスイッチブレード300はアフガニスタンで4,000機近くが実戦投入されましたが、攻撃よりも突発的な警戒・偵察任務に投入されることが多かったようです。既に実戦投入から約10年経っているスイッチブレード300ですが、2022年のロシア=ウクライナ戦争でウクライナ側に供与されたことで改めて注目を集めることになりました。
ただし、アメリカからウクライナに約700機近いスイッチブレード300が提供されたものの、具体的な戦果は不明です。ロシア軍の燃料トラックや機関銃陣地、塹壕内のロシア兵を攻撃する際に使われていますが、調達の容易さと使い勝手の良さから小型民生品ドローンの方を好む兵士が多いそうです。実際、スイッチブレードが投入されている現地の映像は少ない一方、民生品ドローンから小型爆弾を落とす映像はSNSで多数見かけます。ただ、供与されたスイッチブレードの数と入手しやすい小型民生品ドローンの数を考えると後者の方が見かける機会が圧倒的に多いでしょう。
一方、主に戦車などの装甲車両を狙うスイッチブレード600はスイッチブレード300を大型化したものであり、重量が50kg超えとなっています。一応、兵士ひとりで持ち運べるものの、さすがに長距離移動時は車両で輸送するそうです。基本的な運用方法はスイッチブレード300と同じですが、最大の違いは弾頭に「戦車殺し」で有名なジャベリン対戦車ミサイルと同等のものを採用していることです。
したがって、ジャベリンミサイルと同様の威力を発揮できるとされており、ほぼミサイルと変わらないと言っても過言ではありません。むしろ、40分間にわたって上空から獲物を探し続けられる点ではミサイルよりも厄介な存在かもしれませんね。しかも、ジャベリンよりも安く、最大90kmの飛行距離(≒射程)を誇るうえ、タブレットで簡単に操作できるので使う側としては魅力的であり、本家アメリカもハンヴィーの後部にスイッチブレード600を搭載して対戦車兵器として活用する予定です。
実はこのスイッチブレード600はまだ試作段階だったのですが、ロシア=ウクライナ戦争の勃発を受けて急遽ウクライナに提供することが決まりました。現時点では具体的な戦果は確認できていませんが、製造元のエアロヴァイロンメント社は増産して今後も支援を続けるとのことなのでロシア戦車が撃破されるのもそう遠くないでしょう。
ちなみに、エアロヴァイロンメント社の経営者はソ連のアフガン侵攻で難民となり、アメリカに逃れた経験を持つため、今回のロシア=ウクライナ戦争におけるウクライナへの支援には「個人的な意向」も含まれているとのこと。40年以上前の出来事が自爆型ドローンという思わぬ形で跳ね返ってきたわけですが、正規戦におけるスイッチブレードの効果はまだ未知数と言えます。
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