対ソ連の切り札として
米ソによる東西冷戦が続くなか、1970年代にはソ連海軍の急拡大が進み、原子力潜水艦も同じく進化を遂げました。この頃はソ連潜水艦の静粛性(静かさ)がよくなり、搭載する弾道ミサイルの射程延伸にともない、その脅威度は一気に高まりました。
このような事態を受けて、アメリカは超高性能な原子力潜水艦を造り、海中での優位性確保を目指します。その結果、1980年代末に「最強の原潜」と称されるシーウルフ級を開発しました。
- 基本性能:「シーウルフ級」原子力潜水艦
水中排水量 | 9,138t |
全 長 | 108m |
全 幅 | 12m |
乗 員 | 131名 |
速 力 | 最大35ノット(時速65km) |
潜航深度 | 600m以上 |
兵 装 | 魚雷発射管×8 (魚雷・ミサイルを最大50本) |
建造費 | 1隻あたり約5,000億円 |
全ての点でソ連原潜を超えるべく、シーウルフ級は静粛性、搭載兵器量、水中機動力を最重視しており、攻撃型原潜としては現在も最強クラスの性能を誇ります。
それまでのロサンゼルス級と比べた場合、船体規模は40%ほど大きくなり、魚雷発射管の数も倍増しました。加えて、船体には超強度の鋼材を使い、従来より高い耐圧性能を確保しながら、水中を最大35ノット(時速65km)で航行できます。
その設計にあたっては、ソ連原潜と対峙する北極海のみならず、ソ連側の「聖域」であるバレンツ海などでも行動すべく、最初から高い氷海行動力を盛り込みました。
人気漫画・アニメ「沈黙の艦隊」でも、主人公の敵役として北極海で戦い、その高性能ぶりを発揮しますが、実際のシーウルフ級も似た戦闘環境を想定しています。
いざという時は、敵勢力圏の奥深くまで進み、ソ連艦隊・原潜部隊を排除したり、トマホーク・ミサイルで対地攻撃するのが役割です。
過剰性能と高すぎた建造費
ロサンゼルス級よりも速く、強くなり、ソ連原潜に対しても性能で凌駕したため、当初は29隻をそろえる計画でした。
ところが、過剰ともいえる超高性能はコスト超過を招き、1隻あたりの建造費は約5,000億円になりました。これは「アーレイ・バーク級」イージス艦の倍近く、あまりに高額すぎる兵器でした。
しかも、1番艦の進水は1997年にズレ込み、すでに冷戦は終わっていたうえ、仮想敵国のソ連も消滅していました。
コスト高騰に悩んでいたところに、冷戦終結にともなう必要性の低下が加わり、その建造は2隻で打ち切られました。
その後、2005年に3番艦「ジミー・カーター」が就役しますが、こちらは船体が30mほど長く、無人潜水艇や特殊部隊向けの設計を行うなど、準同型艦という扱いです。
シーウルフ級は2隻+準同型艦1隻で終わり、あまりに高いコストが目立つとはいえ、超高性能な原潜であるのは変わらず、現代戦でも全然通用します。
アメリカ海軍では2000年以降、新たに「バージニア級」を建造していますが、その能力はシーウルフ級の2/3にとどまり、代わりに量産コストを優先させた形です。言いかえれば、いまの主力を務めるバージニア級よりも、シーウルフ級の方が性能的には上回るといえます。
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