ロシアが自慢するポセイドン核魚雷の威力は本当か？

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巨大津波を引き起こす

ウクライナ侵攻によって西側諸国との敵対が深まるなか、NATO介入を防ぐためにも、ロシアは核兵器の恐ろしさをチラつかせてきました。それは全面戦争となれば、欧米の主要都市などすぐに壊滅させられるという脅しですが、かなりの誇張が入っているケースも多いです。

その代表例といえるのが、ロシアの大型核魚雷「ポセイドン」になります。

ポセイドンは全長24m、重さ100トンもある超大型の水中兵器で、それは魚雷というよりも自律型の無人潜水艇に近いかもしれません。

約10〜15年かけて開発されたあと、特別改造された原子力潜水艦「ベルゴロド」にて試験運用中とみられています。

ロシア側の発表によれば、この核魚雷は広島に落とされた原爆の約3,300倍もの威力を持ち、水中爆発によって最大500mの巨大津波を引き起こせるとのこと。

これが事実ならば、狙われた地域は数百kmにわたって海に飲み込まれるほか、海水が引いたとしても、残るのは塩害と放射能汚染によって破壊された土地だけになります。

しかも、搭載している潜水艦自体が探知しづらく、魚雷自身も原子力推進を使うことから、10,000km近くを自律航行できるそうです。過去にはプーチン大統領も「ポセイドンは9,600kmも離れた地点を完全破壊できる」と発言しました。

ただし、こうした「最強兵器」に大言壮語は付きもので、ロシア側の主張は事実とかけ離れている可能性が高いです。

ロシア・メディアでさえ最近はトーンを落としており、当初はその爆発力を100メガトンとしていたところ、現在は2メガトン（広島型原爆の133倍）になりました。

ポセイドン核魚雷の先端部分（出典：ロシア国防省）

また、巨大津波に関しても、強調されたほどの威力は見込めないという意見も多く、そもそも500mの津波を起こす意味が疑問視されています。

自然界の地震と比べれば、核兵器の持つエネルギーは小さく、水中爆発で波を引き起こしても、その威力を特定方向だけには差し向けられません。核魚雷そのものが持つ力は冷戦期に実験済みですが、ポセイドンほどのは未検証です。

たしかに、ポセイドンは水上艦隊の壊滅はもちろん、敵国の沿岸部に計り知れない被害を与えるだけの性能はあります。

しかし、それはロシアが自慢するほどの大きさではなく、自然現象を用いる関係からも、実際に与える被害は未知数と言わざるをえません。

もし特定地域を壊滅させたければ、そんな不確実性の高い兵器よりも、従来型の核ミサイルを使った方がはるかに効果的でしょう。

その威力を含めて「やってみないと分からない」兵器なわけですが、これは核抑止という点では効果があります。

仮に500mもの巨大津波を起こせば、それは全面戦争どころか、もはや人類の存亡にかかわる未曾有の危機です。

「そんな狂った兵器を何のために？」と思うでしょうが、こうした終末思想をチラつかせることで、相手に恐怖感を与えつつ、ある程度の行動抑制を期待できます。現実社会でも、自分からわざわざ狂人に立ち向かう人は少ないでしょう。

ここで大事なのは、本当に500mの巨大津波を起こせるかどうかではなく、西側諸国がそう信じ込むことです。

たとえ性能的には「眉唾モノ」でも、自国の沿岸部を未知のリスクにさらしたくない心理は変わりません。そして、ポセイドンの脅威を議論している時点で、すでにロシア側の思惑にはハマりかけています。

ウクライナ侵攻を巡って、NATO諸国はロシアの核恫喝に抑止されている状態ですが、ポセイドンの存在もそれに一役を買っています。