64式の反省をふまえた銃
自衛隊では長らく「64式小銃」が使われてきましたが、これは重くて部品数も多く、命中精度についても評価が分かれる代物でした。
こうした不評も受けて、1989年には新しい主力小銃として「89式小銃」が登場しました。これは64式と同じ豊和工業が手がけたもので、陸上自衛隊の主力小銃となっています。
- 基本性能:89式小銃
重 量 | 3.5kg(本体のみ) |
全 長 | 0.92m |
口 径 | 5.56mm |
発射速度 | 毎分650〜850発 |
有効射程 | 約500m |
装弾数 | 20〜30発 |
価 格 | 1丁あたり約30万円 |
89式小銃は7.62mm弾から5.56mm弾に変わり、64式と比べて反動が少なくなりました。しかも、強化プラスチックによって約0.8kgも軽くなり、長さも抑えて取り回しやすい銃にしました。
また、生産性や整備性を高めるべく、部品数を10%ほど削減したほか、一部の分解作業は専用工具なしでも可能になりました。
そのおかげで、それまで悩まされてきた部品脱落や動作不良は減り、寒冷地や泥濘地、高温多湿な環境など、さまざまな条件にも耐えられます。
このように64式の反省を活かしたところ、89式小銃は日本国内はもちろん、海外派遣でも使えるほどの信頼性・操作性を獲得しました。
新モードと高い命中精度
射撃面では従来の単射・連射モードに加えて、新たに「3点バースト」が与えられました。これは3発ずつ連射する仕組みですが、ムダ撃ちを防いだり、近接戦闘では使いやすく、フルオートよりは高い命中率を期待できるそうです。
発砲炎や反動を抑える装置も付いており、左右非対称のストック部分(銃床)は顔を当てる部分がヘコんでいるため、銃の中心に視線を集めやすく、狙いを定めやすくなりました。
では、実際の命中率はどうなのか?
一応、防衛省の公式基準は以下のとおりです。
「距離300mで単射すれば、直径19cmの円に収まり、6連射では『2m×2m』の範囲に当たる」
イメージしづらいですが、多くの小銃が単射で22〜23cmである点をふまえると、89式小銃は他国と比べても高い命中精度を持っています。
とりわけ命中率が優れているのが、伏せたまま撃ったり、陣地から射撃するときです。これは64式小銃と同じく、防御戦闘を重視したからですが、89式は小銃てき弾(グレネード)も撃てるため、火力支援や対車両戦闘では64式より威力を発揮します。
つまるところ、64式小銃の長所を維持しながら、その短所をなるべく改善したり、攻撃の幅を広げた形です。
部隊によって違う種類
89式小銃は遅いペースながらも、現在までに約16万丁以上が生産されており、陸上自衛隊の通常部隊には行き届きました。一方、海上自衛隊や航空自衛隊、海上保安庁の一部にも配備されていますが、こちらは旧式の64式小銃を用いているケースが多いです。
陸自の主力小銃とはいえ、みんなが同じ89式小銃を使っているわけではなく、部隊によっては少しタイプが異なります。
たとえば、弾倉(マガジン)には20発用と30発用の2つがあって、前者は非戦闘部隊、後者は戦闘部隊向けとなっています。ストックは固定式ながらも、第1空挺団のような部隊は折りたためるタイプを装備しました。
さらに、近接戦闘や海外派遣となれば、新たに光学照準器と着けたり、射撃モードの切換レバーが左側にも追加されたりします。
すなわち、89式小銃には64式にはなかった柔軟性が備わりました。
欠点は拡張性と価格
ふりかえってみれば、89式小銃は十分な信頼性や操作性、命中精度を持ち、国産小銃のレベルを世界標準に引き上げたといえます。
しかし、その拡張性に限界があったり、なによりも少数調達にともなう高価格が欠点となりました。調達数の増加で一時は下がったものの、全体的には諸外国の小銃より高く、いまだ全自衛隊には行き渡っていません。
こうしたなか、2020年には新たな主力小銃として「20式小銃」が導入されました。
現代戦闘や変化する情勢に対応すべく、20式小銃は必要な装置を追加しやすく、ストックも調整できるようになりました。水陸機動団などの離島防衛部隊で使っていますが、全国配備が完了するはかなり先になるため、当面の間は89式小銃が主力の座を維持するでしょう。
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