地図作りのプロ!陸上自衛隊の地理情報隊のスゴイ能力とは

陸上自衛隊
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軍隊には欠かせない仕事

軍事組織が活動するうえで、さまざまな能力や装備が必要ですが、そのひとつに「地図」があります。

古来より地図は軍隊には欠かせず、その有無と正確性がときには勝敗を左右しました。地図が間違っていたり、地形や道が分からなければ、本来は勝てる戦も勝てず、せっかくの能力を発揮できません。

これは地上部隊に限らず、海軍は海図や航路図を、空軍は空路の描かれた航空図を使い、どの軍種にとっても重要なツールです。それでも、陸軍は文字通りの「国土」防衛を担い、作戦が地形に大きく影響される関係から、最も地図を活用してきました。

その土地に実地で展開する以上、詳しい地形や等高線を知らねばならず、地図上のわずかな狂いが致命傷になりえます。あの有名な八甲田山遭難事件も、行軍部隊にまともな地図がなく、土地に不慣れだったから起きました。

旧日本軍も国土を知るべく、1871年から地図の製作に取りかかり、伊能忠敬以来の大規模調査を行います。その後、陸地測量部が全国を調べたところ、国土・地形の把握は大きく進み、陸軍の軍事活動だけでなく、近代日本の産業発展にも寄与しました。

このような活動は陸上自衛隊も受け継ぎ、現在は地理情報隊が東京の東立川駐屯地にて、その責務を果たしています。防衛省唯一の地理・情報専門機関として、地図や地形図、航空写真の作製に取り組み、全国の部隊に提供するのが仕事です。

同部隊は小規模ながらも、市ヶ谷の中央情報隊に所属しており、その上は防衛大臣直轄の陸上総隊になります。つまり、郊外の小部隊にもかかわらず、防衛大臣につながる事実上の独立部隊であって、それだけ重視されているわけです。

具体的には5個中隊からなり、写真撮影から測量・編集、印刷など、それぞれの役割別に分かれています。各中隊はそのための装備を持ち、本部管理中隊には高性能カメラ、複製補給中隊には大型印刷機と保管倉庫がそろっています。

ひとえに地図製作といっても、部隊と活動によってニーズが違い、いろんな種類・縮尺のものが必要です。前述のとおり、海自に対しては海図を、空自には航空図をつくり、陸自向けには目印となる特徴を着色加工したりします。

自然の地形にせよ、人工的な建物にせよ、地図に描かれた情報はよく変わり、頻繁にアップデートせねばなりません。ときには災害派遣の現場、あるいは演習場まで赴き、現地部隊の測量支援を行いながら、その場で最新状況を地図に反映します。

一応、各部隊にも測量隊はいますが、やはり純粋な技量に加えて、知見の豊富さでは地理情報隊にはかないません。また、最近は衛星写真も使えるとはいえ、細かい状況を知るには現地測量や航空撮影が役立ち、多角的な視点を用いてこそ、精巧な地図ができあがります。

これら複合的な情報を落とし込み、地形図から海図、3Dモデルにいたるまで、全方位に対応するのが地理情報隊の役割です。

求められる素質とは

こうした地図が詳しい地形を記す限り、それは国土防衛上の機密になってしまい、作製する側も意識せねばなりません。それゆえ、地理情報隊の情報管理(保全)は厳しく、職種も従来の施設科から情報科に変わりました。

ここでの情報は「インテリジェンス」を指し、地理情報隊は他の情報機関と同じく、機密性の高い部隊といえます。ただの地図といえども、それは現地の細かい情報のみならず、自衛隊の収集・分析能力まで分かり、必要以上にさらしてはいけません。

保管地図は機密扱い(出典:地理情報隊)

なお、地図を作る仕事は専門性が高く、測量や3Dモデルの作製などのように、専門知識と特殊技術が求められることが多いです。

もちろん、仕事と教育を通して専門技能を養い、長期的にプロを育てるとはいえ、誰にでも務まる職業ではありません。

超精巧な地図を作れる

では、彼らが作る地図はどれほどスゴイのか?

まず、測量技術ではプロにも劣らず、むしろ自衛官として険しい地形を進み、あらゆる場所に到達するという、軍隊ならではの強みを誇ります。特に災害発生時に現地まで行き、そこで地図を作ってしまう点など、ほかの者には真似できません。

国土地理院や民間とも協力するものの、単独では高い分析・編集能力を持ち、地図の精巧さでは負けていません。逆に情報を入れすぎたり、解像度が高すぎたせいか、過去には国土交通省からクレームが入ったほどです。

本来は国交省の仕事にもかかわらず、デジタル地図の作成が遅かったことから、地理情報隊が独自に作ったところ、その仕上がり具合に国交省が危機感を抱き、会計検査院からも注意されました。

「仕事を奪わないでくれ」という意味ですが、それだけ地理情報隊の能力が高かった証拠です。そんなエピソードがあるぐらい、地理情報隊の作る地図は精度が高く、その能力開示は国家機密の暴露に近いといえるでしょう。

そもそも、小さな部隊でありながら、自衛隊全体の地図製作を一手に引き受けて、各部隊の活動を問題なく支えている時点で、少数精鋭のプロ集団に違いありません。

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