次世代の主力艦
イギリス海軍といえば、かつては世界の七つの海を支配するなど、圧倒的な艦隊規模を誇ったものの、いまは見る影もありません。現在のイギリス海軍は予算削減にともない、艦艇数の減少と低い稼働率に悩み、単純な艦隊規模だけで比べたら、海上自衛隊の方が上回るほどです。
一例をあげると、運用中の駆逐艦は6隻にとどまり、フリゲートは11隻のみです。老朽化で更新時期が迫るなか、イギリスは新たに「83型」ミサイル駆逐艦を造り、2030年代から配備します。
- 基本性能:83型ミサイル駆逐艦
排水量 | 6,000〜10,000t |
全 長 | 145〜165m |
全 幅 | 20〜22.5m |
兵 装 | 57mm速射砲×1 垂直発射装置(VLS)×70〜128 近接防空火器 魚雷妨害装置 |
艦載機 | 哨戒ヘリ、無人機 |
83型はイギリスの次世代駆逐艦になるべく、最大128セルものVLSを装備しながら、AI搭載の戦闘指揮システムを使います。さらに、FADS(Future Air Dominance System:将来航空支配)の概念に基づき、防空面では新型レーダー、センサーを盛り込み、より柔軟で精密な対処能力を目指しました。
同じイギリスの艦艇、航空機のみならず、NATO諸国とリアルタイムで情報共有を図り、特にF-35戦闘機との連携が重視されています。F-35は戦闘機でありながら、卓越した情報収集能力を持ち、もはや電子偵察機と言ってもいいレベルです。
多様化する脅威にすばやく対処する場合、情報のリアルタイム共有は欠かせず、83型は最初から想定して設計されました。空中目標に限っていえば、それは従来のミサイルに加えて、弾道ミサイルや極超音速ミサイル、小型の無人機など、あらゆる脅威を含みます。
一方、駆逐艦自体は無人機の運用を想定しており、エネルギー指向兵器(レーザー)も搭載予定です。これらは電力消費量を急増させるため、新機関で効率化を図り、電力供給の安定させます。
不安視される建造計画
予定では高性能艦になるものの、問題は計画通りに進むか、あるいは本当に建造できるかです。
2035年の完成を目指しているとはいえ、近年のイギリスは建艦能力が著しく落ち、ほとんど予定通りには進行していません。アメリカの造船能力も危機的ですが、イギリスも新型フリゲートが8年かかっても完成せず、なかなかにひどい状況です(欧米はどこも似たようなもの)。
83型駆逐艦についても、いまは要件固めの段階にすぎず、詳細をつめていくにつれて、実際の出来上がりは変わるでしょう。現在は排水量だけで4,000トンの開きがあるほか、VLSも70〜128セルというバラツキ具合ですから。
それでも、イギリスの財政難は変わっておらず、建造能力も急には改善しない以上、計画の迷走と遅延が懸念されます。アメリカの例を考えると、新たなコンセプトをぶち上げて、新技術をあれこれ盛り込むと、コストオーバーランする可能性が高いです。
また、日本にとってイギリスは準同盟国であって、アジア太平洋にも関心を寄せる頼もしい味方です。そんなイギリスの次世代駆逐艦が失敗すれば、日本の安全保障上は損失になり、ぜひとも成功してほしい計画といえます。
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