対中国の経済枠組み
みなさん、かつて日本国内で大きな議論となった「TPP(環太平洋経済連携協定 )」を覚えています?
農業団体などに反対されながら、日本では安倍政権が2016年に締結したものの、翌年にはトランプ政権下のアメリカが離脱してしまいました。
ここまでは大きく話題となりましたが、アメリカ離脱後は残った11カ国で新たに「環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)」という長ったらしい経済協定を結んでいます。
このCPTPPの締結交渉では、アメリカに代わって日本が主導的役割を果たし、おかげで自由貿易体制を守ったとの好評価を受けました。
出典:日本貿易会
そもそも、TPP(CPTPP)は公正で透明性のある貿易ルールを作り、自由主義に基づく経済発展を促すのが目的でした。
この美辞麗句の裏には、アジア太平洋諸国の中国に対する貿易依存度を下げて、逆にアメリカ主導の貿易圏に結びつける狙いがあります。言いかえれば、経済面における自由主義陣営の枠組みであり、その意図するところは「対中国」です。
中国の影響力が強まるなか、自由主義側の経済クラブを固めて対抗しようとしたわけですが、ここで目指したのは中国の「完全排除」というよりは、先に経済ルールを作っておき、あとから入ってきたときにそのルールに従わせることでした。
英をアジアに組み込む
さて、2018年に発足したCPTPPは排他的な経済クラブではなく、2023年には新たにイギリスの加盟が決まりました(一応、イギリスは太平洋にも領土がある)。
これはEU離脱にともなう孤立を受けて、経済的に新しい居場所を求めた結果ですが、日本はイギリスの加盟を積極的にあと押ししました。
この背景には3つの理由があります。
まず、GDP世界6位のイギリスが加盟すれば、CPTPP経済圏の規模・影響力が増すばかりでなく、さらなる拡大への弾みになります。
次に、中国の将来的な加盟に向けて、あらかじめイギリスを味方にしておくのは何かと都合がよいからです。
じつは中国もCPTPPへの加盟申請をしていますが、アメリカが抜けた分だけ「お目付け役」としての日本の責務は大きく、共同監視できる同志国がほしいのが本音でしょう。
しかも、経済力では中国が圧倒的シェアを占めるので、同じ西側諸国・自由主義陣営の仲間を増やすことで、CPTPP内での主導権を維持したいわけです。
最後にあげられる狙いは、有事に備えてイギリスをアジア太平洋に招き入れることです。
日本とイギリスは安全保障面では準同盟関係となっていて、共同訓練や相互訪問は当たり前になりました。とりわけ、貴重な空母「クイーン・エリザベス」をわざわざ日本にまで派遣するあたりにイギリスの本気度がうかがえます。
こうした安保関係と並行して、同じ経済圏に組み込んでアジア太平洋に深入りさせれば、イギリスの関与はさらに高まります。
むろん、イギリス側もこうした意図は承知済みで、新しい経済圏で得られる実利を考えれば、日英双方の利害が一致した「Win-Win」な結果になりました。
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