巡視船<洋上拠点・揚陸艦
海上保安庁はその警察力で日本の海を守り、密漁や不法入国などを摘発するほか、普段から尖閣諸島沖で中国公船と対峙してきました。
近年は尖閣方面では専用の警備艦隊を立ち上げたり、新たに「れいめい型」巡視船を就役させるなか、この度はさらなる大型巡視船の建造を決めました。
目指すのは全長200m、排水量3万トンの多目的巡視船であり、海保はもちろんながら、世界最大の超大型巡視船になります。
- 基本性能:多目的巡視船(船名未定)
排水量 | 約31,000t |
全 長 | 約200m |
全 幅 | 約27m |
速 力 | 約15ノット(時速28km) |
輸送力 | 最大1,000名を収容可能 |
艦載機 | ヘリコプター×3 |
建造費 | 約680億円 |
新型巡視船は「れいめい型」より3倍以上も大きく、災害派遣や外国漁船への対処、海上警備を担える多目的船として2029年に就役予定です。
主に災害派遣時の物資輸送や避難民の収容を想定しており、排水量3万トンという船体規模を活かせば、大量の救援物資に加えて、消防車や救急車などの緊急車両も多く運びます。
これらを迅速に荷揚げすべく、大型クレーンと乗降車用の車両ランプを持ち、広いヘリ甲板は2機を同時運用します。その規模・能力は輸送揚陸艦に近く、海上自衛隊ならばともかく、とても海保の巡視船とは思えません。
実際のところ、巡視船であるにもかかわらず、全長と排水量は海自の「ひゅうが型」護衛艦より上です。
また、最大1,000名以上を収容できることから、洋上の救援拠点のみならず、一時的な避難所としても使用可能です。従来より医療設備も拡充するため、災害派遣時には海保の最重要拠点になるでしょう。
医療面を含む長期支援能力により、通常は病院船が行う巡回医療なども担い、太平洋諸国に対する日本のプレゼンス強化も期待できます。少なくとも、自衛隊の軍艦よりも海保の方が政治的ハードルは低く、海外向けに使いやすいのは間違いありません。
このような災害派遣能力は戦時でも役立ち、特に台湾有事が起きたときは、周辺地域から住民を避難させる役割を果たします。
災害派遣の事例を前面に押し出しながらも、どちらかといえば、本音では台湾有事の方を意識している節すらあります。それだけ、海保も切迫した状況だと認識しているのでしょう。
尖閣警備は想定せず
まさに常識をくつがえす巡視船ですが、3万トン規模ともなれば、機動的な運動を行うのは難しく、その扱いは通常とは異なります。
中国公船と直接的に渡り合ったり、不審船追跡には大きすぎるため、現時点では機関砲のような武器はなく、あくまで洋上拠点の意味合いが強いです。放水銃ぐらいは載せるかもしれませんが、それでも小回りの利く他の巡視船にはかないません。
よって、海保側は尖閣沖での警備は念頭に置いておらず、小笠原諸島や大東諸島のような手薄な海域、もしくは拠点がない空白地域に洋上基地として赴く形です。最大3機のヘリに加えて、多数のゴムボートも搭載できる能力があれば、単独で警備拠点になりえます。
一方。中国公船との対峙が続くなか、これだけの大型船を最前線に送れば、中国側を一気に刺激するだけでなく、新たな対抗措置を招いてしまいます。それは公船の数を増やしたり、同じ3万トン級の超大型巡視船を造るなど、日本にとってむしろマイナスに働きかねません。
建艦競争になれば、日本は明らかに分が悪く、こちらからあえて緊張レベルを引き上げる必要はありません。
では、尖閣警備に全く使わないのかといえば、そうとも言い切れません。
最前線まで直接は出てこずとも、その後方で補給や乗組員の休息などを行うのではないでしょうか。
人手不足に拍車をかける?
超大型巡視船は複数隻に匹敵する能力を持ち、単独でいろいろな任務をこなせる一方、いままでの巡視船より多くの乗組員が必要です。
自衛隊と同じく、海保も深刻な人手不足に悩み、巡視船の数そのものよりも、それを操る乗組員が足りていません。
このあたりは海上自衛隊の「もがみ型」フリゲートのように、さらなる省人化やクルー制度の導入により、なんとか効率的な運用を目指すのかもしれません。
ただ、大型船であるのは変わらず、海保の人手不足に拍車をかけたり、その運用体制を揺るがすような事態になれば、せっかくの多目的船が意味を持ちません。
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