反撃能力の一部
中国の軍事力増強、北朝鮮の核開発を受けて、日本はさらなる防衛力の整備とともに、独自の反撃能力(敵基地攻撃能力)を入手しました。
手始めにトマホーク巡航ミサイルを買い、「島嶼防衛用高速滑空弾」の開発を通して、国産の弾道ミサイルすら配備しました。こうした兵器に加えて、潜水艦発射型のミサイルも開発予定です。
新たに長射程の巡航ミサイルをつくり、海上自衛隊の潜水艦で使う構想ですが、その目標は敵の航空基地、ミサイル発射基地を想定しています。
潜水艦は隠密性に優れている分、いつ・どこから撃ってくるか分からず、敵にとっては地上発射型よりは厄介です。「海の忍者」にミサイル発射能力を与えると、敵はさらに疑心暗鬼に陥り、行動の制約につながると期待されています。
たとえ水上艦艇や航空機が先制攻撃されても、目に見えない海自の潜水艦がいる限り、日本は一定の反撃能力を温存できるほか、敵に不安と圧力を与えつづけます。
ちなみに、ハープーンなどの対艦ミサイルであれば、すでに海自潜水艦で運用されており、訓練で発射を繰り返してきました。今回開発するのは対艦攻撃だけではなく、対地攻撃にも使えるミサイルですが、その最大射程は約1,000kmまで伸び、相手の射程圏外から撃ち込む方針です。
2つの発射方式を併用
ところで、潜水艦でミサイルを撃つ場合、その方法は大きく2つあります。
まず、魚雷発射管から撃つ方式であって、これは先述のハープーンが該当します。ミサイルをカプセルに収めたまま放ち、海面でカプセルを切り離しながら、ブースターに点火する仕組みです。
この方法であれば、既存の潜水艦でも改修せずに済み、早期配備を期待できます。
それゆえ、政府は三菱重工業と契約を結び、魚雷発射管でそのまま運用するべく、「対艦・対地兼用の長射程巡航ミサイル」を開発中です。2020年代後半には配備が始まり、海自潜水艦は対地攻撃能力を手に入れます。
VLSには大きいミサイルが収まり、攻撃オプションが広がるわけですが、その候補には「12式地対艦誘導弾」の発展型、国産のステルス・ミサイルがあげられます。
ただ、大規模な改修をせねばならず、すべての潜水艦には増設しません。
したがって、魚雷発射管を使った既存の方法、VLS増設を併用する形になります。
あくまで補助兵器?
さて、潜水艦発射型ミサイルで反撃能力を整えるなか、その目的は防衛省の説明では以下のとおりです。
我が国への侵攻を試みる艦艇や上陸部隊等に有効に対処するため。
言いかえると、上陸してくる敵の部隊に対して、対艦・対地攻撃を行うためです。
されど、射程1,000km以上となれば、中国沿岸部なども攻撃圏内に入り、事実上の敵基地攻撃能力になります。
しかし、敵の艦隊・部隊にせよ、中国本土にある陸上基地にせよ、潜水艦発射型ミサイルはメインではなく、あくまで全体の能力を補完する兵器です。
射程1,000km以上とはいえ、発射時点で潜水艦の位置はバレてしまい、せっかくの隠密性が犠牲になります。その残存性を自ら下げるわけですが、これは潜水艦本来の役割を考えると、望ましい使い方ではありません。
しかも、ミサイルを搭載した分だけ魚雷は減り、本来の役目を果たしづらくなります。たとえVLSを増設しても、船体が大きい原子力潜水艦でもない限り、その設置数は約10個が限界でしょう。
10発では補助攻撃としてはともかく、メインの攻撃手段にはなり得ず、主に抑止力としての効果を期待しながら、主役は他の発射母体に委ねると思われます。
つまり、あくまで突発的な奇襲攻撃、全体の作戦における補完として使い、ヒットエンドラン戦術になるでしょう。
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