何がしたい?トランプ大統領の世界観・外交観について

アメリカ
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損をしてきたアメリカ

第2次トランプ政権の発足にともない、アメリカの国内政治はもちろん、世界情勢も荒波に放り込まれました。特に外交・安全保障面の影響はすさまじく、以前の記事で解説したとおり、戦後秩序を崩壊させるレベルです。

トランプ政権で終わるアメリカの国際秩序・戦後世界
外交・安保で信用が失墜 第二次トランプ政権の発足以降、アメリカの外交・安全保障政策は急激に変わり、その豹変ぶりは世界に衝撃を与えました。薄々分かってい...

しかも、前回の就任時とは違って、今回はイエスマンばかりの側近政権になり、周辺を「チーム・トランプ」で固めました。その結果、ますます暴走に拍車がかかり、他所からは異常事態とさえ思える状況です。

では、トランプのふるまい、言動の裏には何があるのか?

トランプはアメリカが世界の食い物にされたうえ、ずっと損をしてきたという世界観を持っています。散々ぼったくられてきた以上、ここからは取り戻さねばならず、その矛先は同盟国・友好国に向かいがちです。

トランプに言わせると、アジア・ヨーロッパを問わず、同盟国はアメリカの軍事力に甘えながら、本来やるべき負担をサボり、安全保障のタダ乗りをしてきました。その間、アメリカは多大な負担に苦しみ、同盟国は米軍の庇護の下、悠々自適に経済成長できたわけです。

乱暴な言い方はともかく、この指摘自体は一理あって、安全保障面で甘えていたのは否めません。あまりに露骨な主張に対して、長年の同盟国は反発したくなるものの、アメリカが疲れている事実は変わらず、まずはこの点を認識したうえで、安全保障上の負担を分かち合うべきです。

ともかく、この世界観に基づき、同盟国に負担増を求める、あるいは金を支払わせる、というのがトランプの考えです。これまでタダ乗りしながら、アメリカに損をさせてきた分、きっちりと対価をもらわねばなりません。

そして、それは交渉と対外圧力を通して行い、お得意の取引(ディール)の出番です。このとき、数では不利な国際機構や多国間関係を嫌い、力の優位性を活かせる二国間交渉を好み、1対1の構図に持ち込みたがります。1対1の関係において、アメリカに対抗可能なのは中国ぐらいですから。

自伝を「取引の極意(The Art Of The Deal)」と名付けるほど、ディール好きなトランプですが、実際は取引の「行為」を楽しみ、あまり「中身」には興味ありません。

なにかとディールにこだわり、1対1の交渉を望むにもかかわらず、いざ詳細を詰める作業になると、ほとんど部下に任せてきました。あくまで自分が取引に持ち込み、そこで勝利したという構図が大事なのです。

自伝を掲げるトランプ大統領

一方、アメリカ国民の目線に立てば、ここ20年で経済格差と社会不安が広がり、いろいろ疲れて切っている状態です。以前のような力強さは見当たらず、アメリカ社会が疲弊していたところ、トランプの世界観は上手くハマりました。

人間は自身を省みるよりも、他責思考の方が楽であって、「世界が悪く、アメリカが被害者」という主張は共感を呼び、多くの国民の琴線に触れました。彼らを基盤支持層にする限り、いまさら穏健路線には戻れず、ウケる言動で満足させるしかありません。

同盟国としては、アメリカ国民の心情に理解を寄せながら、こちらの負担を相対的に増やして、協同的な姿勢を示すのがベストでしょう。

ただし、アメリカが戦後秩序を事実上つくり、その警察官を担ってきたからには、身勝手な放棄は許されません。たとえ撤退するにしても、それは徐々にすべきであって、拙劣なやり方は力の空白を生み、あまりに無責任かつ危険です。

狂人を演じているのか

トランプの奔放なふるまいを見て、「わざとヤバイやつを演じている」との声があります。これは国際関係では「狂人理論」と呼び、相手を交渉のテーブルにつかせるべく、あえて予測不能な態度をとります。

実例をあげると、かつてニクソン大統領がベトナム戦争で使い、北ベトナムとの和平を実現したとされてきました。

何をしでかすか分からない以上、交渉相手は慎重にならざるをえず、結果的に譲歩を引き出せるという戦法です。失うものがない無敵の人がいたら、怖がって言うことを聞く感じでしょうか。もっとも、これは「演じる」のが前提であって、本当の狂人がやると意味ありません。

トランプの言動は狂人理論っぽいものの、そのアプローチはニクソンとは違って、適用する相手を仮想敵国だけでなく、なぜか同盟国・友好国にも乱用してきました。

両者ともアメリカの疲弊を考えて、同盟国の負担増を求める点は変わらず、ニクソンも米中国交正常化など、頭ごなしに動いてはいました。

ただ、ニクソンはアメリカ主導の秩序そのものは守り、同盟国をないがしろにまではしていません。トランプは既存秩序の維持にはこだわらず、短期視点で自身の成果を追求してきました。

つまり、両者の差は中・長期的な視点の有無、国際関係に対する理解の欠如といえます。

保守的な価値観

同盟国を雑に扱うなか、トランプの対外関係には「例外」があって、その代表例がイスラエルとロシアです。

ロビー活動の成果なのか、あるいはユダヤ系の娘婿の影響なのか、トランプはイスラエル批判をほとんどせず、変わらぬ支援をしてきました。同じ軍事支援でも、ウクライナとイスラエルを対照的に扱い、後者には文句を言っていません。

「親イスラエル」はトランプに限らず、アメリカあるあるとはいえ、それだけロビイストの影響力が強く、トランプ陣営にも入り込んでいる証です。

一方、ロシアのプーチン大統領にはやたら甘く、何か弱みを握られている、スパイとまで批判されてきました。

しかし、スキャンダルまみれのトランプにとって、新たな不祥事が発覚したところで、そこまで岩盤支持層は離れないでしょう。本当にスパイならば別ですが、個人的なスキャンダルでは揺るがず、あまり大勢に影響を与えません。

なぜかロシアには甘い

それゆえ、実際は個人的な都合ではなく、保守的な価値観が共鳴した結果と思われます。トランプ主義は伝統的な保守層に根強く、キリスト教の保守思想に合いました。

彼らは急進的なリベラル思想を憎み、不法移民やLGBT運動に嫌悪感を抱きます。これはトランプも変わらず、古きよきアメリカを懐かしみ、古典的な価値観を守るべく、リベラル左派とは対決してきました。

この見方をふまえると、アメリカ国内は言うまでもなく、他国も主義・主張を押しつける限り、アメリカ保守層の「敵」に該当します。

逆にロシアなどは保守的な価値観を守り、リベラル思想をまき散らさないため、一部の同盟国より害が少なく見えます。

むしろ、彼らとは思想面での相性がよく、プーチンの反移民・反LGBT政策に共鳴しやすいです。この傾向はトランプにも当てはまり、リベラルな考えのマクロンではなく、保守的なプーチンに親近感を抱き、それが態度に現れてきました。

トランプ政権で終わるアメリカの国際秩序・戦後世界
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