アメリカが開発した初めての「実用」ステルス機
ステルス機といえば、最新鋭のF-35戦闘機や世界一高価な飛行機と言われるB-2爆撃機のイメージを持つかもしれませんが、実は世界初の実用的なステルス機はかなり角ばった形をしていました。それが冷戦中に開発され、1981年にデビューしたアメリカの「F117 ナイトホーク」と呼ばれる攻撃機です。
⚪︎基本性能:F-117 ナイトホーク
全 長 | 20.1m |
全 幅 | 13.2m |
全 高 | 3.78m |
乗 員 | 1名 |
速 度 | マッハ0.92 (時速1,136km) |
航続距離 | 1,720km |
上昇限度 | 14,000m |
兵 装 | 誘導爆弾など2,000kg |
価 格 | 1機あたり約175億円 |
ステルス機の構想自体は第二次世界大戦まで遡ることができ、ドイツが開発した全翼機「ホルテンHo229」などが有名ですが、戦後も米ソを筆頭に各国で研究が継続されました。特にベトナム戦争を通じて多くの航空機を失ったアメリカはステルス機の必要性をより痛感し、結果的にF-117の誕生につながります。
通常、レーダーから発せられた電波は目標に当たって跳ね返ることで「探知」しますが、ステルス機の場合は意図的にこの電波を違う方向に跳ね返すことで探知されにくい状況を作り出すわけです。したがって、F-117もレーダー波を特定方向に反射させるために平面を多数した組み合わせた設計に基づいており、角ばったひし形のような見た目をしています。
ちなみに、現在のステルス機はF-117と比べると流線的な外観ですが、これはF-117の開発時と比べてコンピューターの性能が格段に向上し、設計段階のシミュレーションで角ばったデザイン以外もできるようになったからです。例えば、昔のゲームではキャラクターが角ばった姿をしていることが多いですが、これも当時のコンピューターの限界の表れと言えます。

また、機体にはレーダー波を吸収する材料を使用しており、搭載する兵器も機内に格納できるようにしています。一部ではレーダーに映りにくくするために機体に木材を使っているとの噂がありましたが、これはコソボ紛争で撃墜されたF-117の写真から事実であることが確認されました。
他にも、赤外線センサーによる探知を避けるために排気口を機体の上部に設置し、エンジン排熱の捕捉リスクを低減しています。そして、逆探知される恐れがあることから本機はレーダーをあえて搭載しておらず、目標探知は主にレーザーや赤外線装置に頼らざるを得ません。このように様々な工夫を施した結果、F-117は極めてレーダーに映りにくい機として仕上がり、飛行試験では早期警戒管制機ですら至近距離で初めて探知できたそうです。
こうして世界初の実用ステルス機として開発されたF-117ですが、冷戦の真っ只中ということもあってその存在は当然ながら極秘とされました。飛行試験中の事故で2機を喪失したものの、計画は秘密裏に進められ、1982年からは部隊配備が始まります。しかし、配備後もF-117は公表されなかったので、その存在は長らく「噂」レベルに留まり、挙げ句の果てには「正体不明の飛行物体」としてUFOと誤認されることも。
F-117の存在が正式に公表されたのは1988年のことであり、この時すでに52機が配備された後でした。面白いことに、公表以前のF-117はレーダー波を乱反射させるために丸みを帯びた外観だと思われていたため、実際は真逆の角ばった飛行機と知った人々は驚いたそうです。
実戦で示した有効性、時代とともに減りゆくメリット
合計64機が生産されたF-117ですが、初の実戦参加は1989年末に行われた中米のパナマ軍に対する爆撃であり、6機が投入されたものの、爆撃は目標を外して高性能なステルス機なのに「失敗した」と批判されました。しかし、その後は1991年の湾岸戦争で40機以上が投入されて、1機の被害も出すことなくイラク軍を爆撃したことで汚名返上を果たしました。
しかし、1999年のコソボ空爆において「探知されにくい」はずのF-117がセルビア側の防空ミサイルによって撃墜される事件が発生します。この時、既述のようにF-117が機体に木材を使っていたことが判明し、一部の残骸は中国に流出したそうですが、既に最新とは言えない技術であったことからアメリカも特段問題にしませんでした。
その後もイラクやアフガニスタンでの空爆任務に投入されますが、戦闘で失われた機体はセルビアで撃墜された1機のみであり、ステルス攻撃機としての有効性は十分証明できたと言えます。しかし、F-117よりも優れたB-2爆撃、F-22ラプター、F-35ライトニングⅡが登場したことでわざわざ本機を使う必要がなくなり、2008年に全機が退役しました。それでも数機はいつでも復帰できるように保管され、実は退役後も飛行する姿が目撃されていることから引き続き研究や訓練支援で何機かは運用されているものと推測します。

さて、実戦を通じてステルス攻撃機として十分な性能を持つことが分かったF-117ですが、その一方で運動性は決して良いとは言えず、急旋回時に主翼が負荷に耐え切れずに損傷して墜落する事故も起きています。これは設計上の問題に由来していますが、そもそもF-117のデザインは航空力学的には飛行に不向きなのです。
それまでの航空機とは異なる独特の設計によって高いステルス性能を獲得できた一方、F-117は機動性が非常に悪く、「フライ・バイ・ワイヤ」と呼ばれるコンピュータ制御による操縦システムを用いることでこの問題をクリアしています。このシステムはパイロットの操作を電気信号を通じてコンピュータに送ることで最適の姿勢制御を行ってくれますが、本機ではこのフライ・バイ・ワイヤを四重に施すことで形状の割には安定した飛行を実現しました。しかし、結局はコンピューター制御によって無理に飛ばしている状態なので、機動性が悪い点は変わらず、速度もマッハ0.92と比較的「遅い」部類に入ります。
また、ステルス機ならではのメンテナンス費用も高くつくのが悩みであり、1時間飛行すると30時間のメンテナンスが必要とされていました。最新鋭のステルス機ならともかく、F-117は既に半世紀近く前の機体であり、その技術も当時と比べればもはや「極秘」と言えません。したがって、わざわざ高い費用と長時間をかけてまで運用するメリットが少なくなり、爆撃任務も可能かつ機動性では圧倒的に優れるF-35ステルス戦闘機が登場する中でF-117を維持する魅力はなくなったでしょう。
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