選択肢を残す制裁手段
国際情勢・紛争を巡るニュースにて、よく耳にする「経済制裁」という言葉。
ある国が問題を起こしたとき、経済活動を制限することにより、対象国の行動を変える強要手段です。
相手経済の弱体化を招き、その国の世論を刺激したり、指導層に危機感を抱かせます。そして、相手を交渉の場に引きずり出す、紛争原因の政策を変更させます。
直近ではウクライナ侵攻に対して、欧米諸国などが対ロシア制裁を行い、プーチンに戦争断念を迫りました。ロシアが核保有国である以上、そう簡単には軍事介入できず、代わりに経済制裁を選びました。
核保有国・軍事大国でなくとも、最初から武力制裁を選択すると、相手も武力で応じざるを得ず、紛争が拡大してしまいます。相手の選択肢を残すべく、まずは経済手段から取り組み、徐々に圧力を引き上げる形です。
「窮鼠(きゅうそ)、猫を噛む」のとおり、いきなり相手を追い詰めると、切羽詰まって暴発するかもしれません。だからこそ、選択の幅を残しておき、交渉・解決の余地を確保します。
効果が遅く、不透明
他方、経済制裁は欠点も多く、そのひとつが時間を要する点。
そもそも、経済制裁は即効性ではなく、時間とともにジワジワと効き、ボディブローを受ける感じです。
影響が出るまで時間がかかるわけですが、その間に備蓄でまかなったり、抜け道や代替先を確保されたら、余計に効果を実感しづらいでしょう。
しかも、分かりやすい武力制裁とは違い、経済制裁は地味で効果が見えづらく、成果を出す保証はありません。
みんなで一致団結しながら、一斉に制裁発動するならともかく、加わらない国も多く、それが抜け道を与えてしまいます。対露制裁の発動は西側諸国にとどまり、中国やインドは安く買う機会だと思い、制裁対象の資源を買い込みました。
全員とまでは言わずとも、関係国の大部分が同調しないと、あまり経済制裁は効きません。
制裁に加わらなくても、第三者が制裁対象と取引した場合、同様に罰する「二次制裁」を課すなど、逃げ道をふさぐのが重要です。
自分にも返ってくる
次に、制裁側も無事では済まないこと。
国際社会のグローバル化が進んだ結果、ほとんどの国が互いの経済と結びつき、「相互依存状態」になりました。
こうした状況で制裁を発動すると、対象国の経済だけではなく、制裁を課した側もダメージを受けます。
たとえば、ヨーロッパはロシア産の石油、天然ガスを制裁対象にするも、結果的に原油高と物価高騰につながり、自分たちの生活も直撃しました。
すなわち、経済制裁は「諸刃の剣」であって、北朝鮮のように孤立していない限り、ある程度は自分にハネ返ってきます。
自分も苦しむ覚悟を持ち、本気で取り組まない限り、中途半端な制裁になってしまい、微妙な効果しか期待できません。実際のところ、対露制裁では欧米側も動きが鈍く、禁輸政策を徹底できていません。
直に締めつけるにせよ、抜け穴をふさぐにせよ、結局は政治的意志のの問題です。
人道的見地とのバランス
ところで、本来は政策決定者(指導層)を狙い、方針転換を迫るのが経済制裁です。
ピンポイントで指導層を狙い、影響を限定できるならともかく、一般市民を少なからず巻き込み、彼らの生存権まで脅かしてしまうと、今度は人道上の問題が出てきます。
北朝鮮に対する制裁は約20年も続き、多くの国民が犠牲になったにもかかわらず、核開発は全く止まっていません。もともと孤立していた経済体制、中露経由の制裁逃れはあるにせよ、犠牲を出すだけで核開発は止まらず、倫理上の疑問も生まれています。
このような人道的見地も加わり、経済制裁の議論は複雑化しました。
やらないよりはマシ
では、経済制裁は意味がないのか?
対露制裁の話に戻ると、ロシアは戦時経済体制に変わり、同時に中国依存を強めていますが、こんな経済状況は持続性が低く、決して「正常」ではありません。
戦費は増え続けるにもかかわらず、石油・ガスは制裁の影響で安く売るしかなく、国民の積立年金に手を出すほど、資金調達には苦労しています。
さらに、ロシアは天然資源が豊富な代わり、電子部品や工業製品の分野には弱く、戦前は西側諸国に依存していました。
これが制裁の影響で買えなくなり、兵器の製造能力に打撃を与えました。中国・イラン・北朝鮮に頼ってしのぐも、膨大な損耗に対して補充が追いつかず、戦場での装備不足が深刻化しています。
戦争を断念させるにはいたらず、当初の想定を下回る効果とはいえ、戦争が長期化するにつれて、ロシアの国力は疲弊で落ち込み、制裁が影響しているのは事実です。
本来の目的は果たしていないが、軽視できないほどの打撃は与えており、二次制裁まで拡大させたり、相手が依存する「戦略物資」を狙えば、それなりの制裁効果は見込める、という評価になります。
以上の点をふまえると、特に何も行動せず、傍観するよりはマシであり、意志表示の重要性を考えると、やらないよりはやるべきです。
少ないが、成功例はある。
一応、ロシア以外に目を移せば、経済制裁の成功例はあります。
かつて南アフリカはアパルトヘイト政策の下、政府が平然と黒人差別をしていました。世界中で差別撤廃が進むなか、同国では1980年代も堂々と続き、アメリカが経済制裁を強めます。その後、1991年に根を上げて撤廃したため、政策変更の意味では成功例です。
また、イランの核開発計画にともなって、国連は2007年に経済制裁にふみ切り、イランは2013年に交渉に応じました。長い時間を要したとはいえ、2015年にはアメリカと核合意を結び、政策転換を実現しています(トランプ政権が破棄するが)。
しかし、成功例そのものは少なく、アメリカのシンクタンクによると、過去100年での成功率は20〜30%とのこと。高い成功率ではありませんが、軍事力抜きで強要するとなると、必然的に効果と成功率は下がり、個人的には「まあ、こんなものか」と思います。
もとより万能な手段ではなく、あえて武力に頼らないわけですから、それで2〜3割の見込みがあるならば、試してみる価値はあるでしょう。


コメント