大気圏外で迎撃
北朝鮮の核開発問題を受けて、日本ではミサイル防衛の整備が進み、イージス艦からの「SM-3」、地上のPAC-3の「二段構え」になりました。一方、アメリカではさらに「THAAD」を使い、多層的な迎撃態勢を構築しています。
このたまに聞く「THAAD」とは何なのか?
- 基本性能:THAAD防空システム
| 重 量 | 900kg |
| 全 長 | 6.2m |
| 直 径 | 37cm |
| 速 度 | マッハ8.2(時速10,000km) |
| 射 程 | 200km |
| 高 度 | 40〜150km |
| 価 格 | ミサイル:1発あたり約20億円 部隊セット:約1,500億円 |
まず、THAADは「Terminal High Altitude Area Defense」の略称であり、日本語では「終末高高度防衛」と訳されます。なにやら難解ですが、「終末」は弾道ミサイルの飛行経路において、突入する直前の最終段階のことです。
弾道ミサイルは発射直後の上昇段階、宇宙空間を飛ぶ中間段階、目標に向かう終末段階、という3つのフェーズに分かれており、THAADは最後の落下段階で迎撃します。
その迎撃高度は最大150kmですが、これは成層圏を超えるどころか、もはや宇宙の入口(大気圏外)です。高高度で迎撃できる分、防護範囲は半径200kmと広く、都市や基地など特定の地点のみならず、「エリア単位」で広域防衛できます。
さらに、高高度で迎撃するからこそ、失敗しても別のシステムを使い、再挑戦する時間的余裕があります。同じ終末段階を狙うといえども、PAC-3は防護範囲が数十kmと狭く、順番としてはSM-3(中間段階)の後、PAC-3より先に使うイメージです。
たとえ迎撃に成功しても、ミサイルの残骸が落下すれば、その影響を抑えねばなりません。大気圏外に近い高高度なら、破片が燃え尽きる可能性が高まり、地表の被害を最小限にできます。
すなわち、高高度で迎撃することにより、失敗リスクを低減するとともに、二次被害を防ぎ、多層防衛の中核を担うわけです。
システムの構成要素
さて、THAADは複数の装備品で成り立ち、それぞれが連携して機能する、いわば複合的なシステムです。
迎撃ミサイルは秒速2.5kmで飛び、大気圏外でブースターを切り離したあと、赤外線画像機能で目標を見つけます。その後、スラスターで姿勢制御と軌道修正を行い、そのまま目標に体当たりしながら、強烈な運動エネルギーで破壊します。
つまり、THAADの迎撃ミサイルは「爆発」せず、あくまで直撃して撃墜する仕組みです。
発射機には8発のミサイルが収まり、大型トレーラーに搭載しながら、機動展開性を高めました。これは空輸性にも優れており、C-17輸送機などで世界各地に運び、米軍基地や同盟国を防衛できます。
目標の捜索には「AN/TPY-2」を使いますが、これはTHAADの「目」にあたり、最高峰の性能を誇るXバンドレーダーです。1,000km以上の探知能力を持ち、弾道ミサイルを遠距離から捕捉・追尾できます。後述のとおり、あまりに高性能・強力であるがゆえ、中国やロシアはその配備に反発してきました。
通常は6つの発射機で部隊を組み、ここに「AN/TPY-2」レーダー、指揮統制システム、電源装置などが加わり、ひとつの戦術単位として行動します。特に統制システムは味方同士をつなぎ、イージス艦やPAC-3と連携しながら、リアルタイムの多層防衛を実現しました。
配備状況と韓国問題
そんなTHAADの運用は2009年に始まり、アメリカ以外ではサウジアラビア、アラブ首長国連邦が買い、実戦でフーシ派の弾道弾を撃墜しました。
そして、イランやフーシ派の攻撃に対して、アメリカもイスラエルにTHAADを送り込み、150〜200発以上を発射してきました。試験では100%の成功率を出すも、やはり実戦では全弾撃墜とはならず、いくつかは撃ち漏らしています。
それでもなお、システムとしての信頼性は高く、中東での実戦経験をふまえて、アルゴリズムの改良が進み、現状では他国と比べて最高級の性能です。
迎撃ミサイル抜きでも、「AN/TPY-2」レーダーさえ配備すれば、周辺地域の軍事動向を暴き、ミサイルの発射を早期探知できます。当然、周辺国はTHAADの配備を嫌がり、在韓米軍基地に置いた際(2017年)、中国は烈火のごとく怒りました。
対北朝鮮が目的とはいえ、韓国に「AN/TPY-2」を配備した結果、中国本土の動向まで筒抜けになり、安全保障上の大問題になりました。その怒りは韓国政府に向き、韓国製品の不買や団体観光中止など、経済的手段で激しい報復を加えました。
ところが、日本でTHAAD導入の話が出たとき、中国はそこまで反応しておらず、日本としてはやや意外でした。
自衛隊は導入していないものの、在日米軍は北朝鮮を監視すべく、「AN/TPY-2」を青森県の車力分屯基地、京都府の経ヶ岬通信所に配備しています。ミサイル発射機ではなく、レーダーだけの配備ですが、その目は朝鮮半島どころか、中国本土の一部まで届き、中国としては当然「嫌」でしょうが。
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