「質」で勝負する少数配備型
ロシア軍の主力戦車といえば、世界的ベストセラーの「T-72シリーズ」ですが、これは大量生産・配備する前提で開発されました。その代わり、性能面では妥協せざるをえず、あくまで数で相手を圧倒する存在です。
他方、生産数ではT-72に劣るとはいえ、性能で勝負したのが「T-80」でした。
その生産はT-72と同時期に始まり、「数」のT-72シリーズに対して、「質」のT-80というイメージです。T-72より性能が優れている分、価格は2倍以上になってしまい、大量のT-72と少数のT-80を組み合わせて、上手いバランスを見つけようとします。
これは「ハイ・ローミックス」と呼び、多くの低価格・普通の兵器とともに、少量の高価格・高性能を使う構想です。
すなわち、T-80戦車は「ハイ(High)」を担い、対NATOの切り札とされてきました。
- 基本性能:T-80戦車U(改良型)
| 重 量 | 46t |
| 全 長 | 9.7m |
| 全 幅 | 3.6m |
| 全 高 | 2.2m |
| 乗 員 | 3名 |
| 速 度 | 時速70km(舗装路) 時速40km(不整地) |
| 行動距離 | 約340km |
| 兵 装 | 125mm滑腔砲×1 12.7mm機関銃×1 7.63mm機関銃×1 |
| 価 格 | 1両あたり約4億円 |
まず、T-80は125mm滑腔砲を持ち、通常の砲弾だけではなく、対戦車ミサイルも発射できます。
当初は敵との距離を測るとき、光学式の装置を使っていたものの、改修型ではデジタル式に変わり、新しい射撃管制装置に組み込みました。ここに赤外線暗視装置も加わり、T-72の約2倍の視認距離を実現するなど、命中精度は格段に上がりました。
自動装填装置もT-72とは違って、1回の動作で装填が完了するため、装填速度では上回り、ここでも性能の差を感じさせます。
防御面では複合装甲を採用しており、鉄板以外の素材も重ね合わせることで、従来型より防護力を高めました。さらに、砲塔などは爆発反応装甲で覆い、被弾時はわざと爆発させながら、敵弾の威力を減衰させます(T-72も同じ)。
ガスタービン・エンジンを搭載
一方、T-80はガスタービン・エンジンを使い、ここがディーゼル型のT-72と違う点です。ガスタービン・エンジンといえば、主に航空機が使うものであって、普通は戦車では使用しません。
しかし、ディーゼル型と比べてパワーが高く、始動までの時間が短いのが利点です。これは極寒のロシアでは特に役立ち、冬でもエンジンがすぐに掛かるなど、出力と瞬発力に優れています。
また、エンジン自体はコンパクトで軽く、車体設計の自由度も高まることから、あえてT-72と違うタイプを選びました。
こうした利点があるとはいえ、ガスタービン型は燃費がとても悪く、ディーゼル型の約2〜3倍の消費量です。その分だけ行動距離が短くなり、T-72より頻繁に給油せねばなりません。
消費燃料と給油回数が増えると、それだけ兵站補給能力に負担がかかり、運用上は重大な欠点です。
ちなみに、ライバルはアメリカの「M1エイブラムス」ですが、こちらも同じガスタービン・エンジンを持ち、奇しくも同様の問題を抱えています。ただ、アメリカはチート級の兵站能力により、この弱点を乗り越えてきました。
共通する「びっくり箱」の弱点
もうひとつ大きな欠点をあげると、それは被弾時に弾薬が誘爆しやすいこと。
これはT-72に共通する問題ですが、ロシア戦車は車高を抑えるべく、弾薬庫を砲塔の直下に置き、代わりに生存性が低くなりました。この設計だと誘爆しやすいほか、被弾時は上にある砲塔も吹き飛び、乗員の生存は期待できません。
逆に西側諸国の戦車を見ると、砲塔の後ろに弾薬庫を置きながら、ドアで仕切りをしてます。それゆえ、西側戦車の方が圧倒的に生存性が高く、ウクライナ侵攻では両者の差が明確に出ました。
結局、T80は安全面での配慮が少ないわけですが、それは東ヨーロッパの地形をふまえて、車高の低さを優先した結果です。自動装填装置は装甲(一部)があるものの、設計自体が変わらない限り、T-72と同様に「びっくり箱」になる確率が高く、生存性が低い欠点は否めません。
激しい損耗で絶滅間近
さて、性能を落とした輸出型を含めると、T-80の生産数は5,500両以上にのぼり、旧ソ連圏を中心に運用されています。
本来は対NATO用にもかかわらず、初陣は第1次チェチェン紛争(1994年)になり、その相手はチェチェンの独立勢力でした。
しかし、ここでT-80は思わぬ敗北を喫します。
首都・グロズヌイの市街戦において、民兵のロケット弾を次々と被弾するなど、わずか1日で数十両が炎上しました。市街地で歩兵との連携が上手くいかず、閉鎖的な環境で孤立したところ、敵に各個撃破された形です。
したがって、主に戦術面での失態はいえ、やはり前述の誘爆リスクが響き、多くの乗員を失いました。
なお、ウクライナ侵攻(2022年〜)でも改良型のT-80BV、T-80BVMとともに多数が投入されています。ところが、ウクライナ側も同じT-80シリーズを使い、T-72と合わせて互いの車両を鹵獲したり、たびたび同士討ちが発生してきました。
むろん、ウクライナでも砲塔ごと吹き飛び、1,000両以上を損失しました。特に現代戦は自爆ドローンが飛び交い、次々と突っ込んでくるため、誘爆リスクが致命的問題です。
いまやT-80の保管車両すら尽きてしまい、ほとんど予備戦力がありません。たとえば、在庫は開戦前の1,700両から140両に減り、あとは運用中の約400〜500両だけ。
ロシアは再生産を試みていますが、なかなか「新規生産」は進まず、その実態は古い車両のレストア、旧型のアップグレードです。それでもなお、損耗に対して補充が追いつかず、最近の損失ペースを考えると、2026年中には絶滅する可能性があります。
T-72の損失もすさまじいですが、T-80はもっと悲惨な状況といえるでしょう。
まとめると、T-80にはソ連の戦車技術の粋が集まり、T-72シリーズを上回る性能でした。されど、燃費問題や誘爆リスクがある以上、生存性では西側戦車に劣ってしまい、その差は現代戦で如実に現れたほか、ウクライナでの激しい損耗を受けて、もはや絶滅危惧種になりました。
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