対ソ連の「水中の狩人」
アメリカの潜水艦といえば、通常動力型(ディーゼル式)は持たず、全て原子力型ですが、最も実績豊富なのが「ロサンゼルス級」です。
これは1976年の登場以降、順次改良を重ねてながらも、その建造は1996年まで続き、最終的に62隻が就役しました。
解説をする前に、まずは原子力潜水艦の役割について。
原潜には大きく2つの種類があり、ひとつは核ミサイルを積み、海中から敵に報復する弾道ミサイル潜水艦(SSBN)。もうひとつは敵艦隊や潜水艦を追い、撃沈する攻撃型の原潜(SSN)。
ロサンゼルス級は後者のSSNにあたり、核抑止の報復戦力ではなく、自国のSSBNを相手から守り、敵の原潜を狙う「水中の狩人」です。
- 基本性能:「ロサンゼルス級」原子力潜水艦
| 水中排水量 | 6,900t |
| 全 長 | 110m |
| 全 幅 | 10m |
| 乗 員 | 130名 |
| 速 力 | 水上:20ノット(時速37km) 水中:25ノット以上(時速46km) |
| 潜航深度 | 最大450m |
| 兵 装 | 魚雷発射管×4 ミサイル垂直発射装置×12(後期型) |
| 建造費 | 1隻あたり約3,000億円 |
アメリカでは1950年代から原潜を使うも、1970年代にはソ連原潜の近代化が目立ち、既存技術では探知・追尾が難しくなりました。そこで、対ソ連任務に特化した艦を作り、「ロサンゼルス級」として送り出します。
その全長は10階建てのビルに相当するほか、水中排水量は巡洋艦並みになりました。大きな船体にもかかわらず、当時の最新原子炉で25ノットの速力を誇り、実際は30ノットを超えるそうです。
また、ソ連潜水艦の静粛性に対抗すべく、エンジンは振動を吸収する構造になり、原潜の弱点である騒音を抑えました。さらに、スクリューの形状を最適化したり、艦体表面に吸音タイルを貼るなど、あらゆる手段で騒音を減らしています。
他方、新しいソナーシステムを持ち、懸念だった探知能力を改善しました。その結果、ロサンゼルス級は相手を探知したあと、静かに近くまで忍び寄ったり、確実に追い回せます。
VLSで戦闘能力が飛躍
ロサンゼルス級は有線誘導式の「Mk-48」魚雷、あるいはハープーン対艦ミサイルを使い、敵の潜水艦や水上艦を撃沈しますが、これは艦首にある4門の発射管から撃ちます。
そして同じ発射管を使えば、トマホーク巡航ミサイルを放ち、地上の目標を攻撃可能です。なお、後半に建造された艦になると、12個の垂直発射システム(VLS)が加わり、トマホークの運用能力が上がりました。
トマホークは1,500キロ以上の射程を持ち、地上目標を精密攻撃できるため、湾岸戦争・イラク戦争・アフガニスタン紛争など、ロサンゼルス級は多くの実戦を経験しました。
VLSを手に入れたところ、対潜・対水上攻撃のみならず、対地攻撃まで担うとはいえ、ミサイル発射は位置をバラしてしまい、本来は望ましくありません。したがって、相手がまともな反撃手段を持たない場合、または圧倒的優位な状況でしか使わず、対地攻撃としては補完的な立場です。
されど、相手からすれば、潜水艦がどこからともなく現れて、水中から巡航ミサイルを撃ち、そのまま逃げるわけですから、あまりに厄介すぎる存在でしょう。
ほかにも、頻度は少ないものの、機雷の敷設や特殊部隊の作戦支援を行い、その対応範囲は大きく広がりました。
退役進むも、いまだに脅威
ロサンゼルス級は最多量産された原潜として、冷戦後半はアメリカ潜水艦隊の主力を担い、ソ連原潜の追尾に明け暮れました。特に北極海やバレンツ海、極東周辺において、ソ連潜水艦を追いかけ回しながら、その行動パターンを記録したほか、特定に必要な音紋を捉えました。
こうした任務には静粛性、水中高速力が欠かせず、ロサンゼルス級は期待どおりの性能を発揮します。1980年代のある時など、ソ連の最新潜水艦にそのまま近づき、接触寸前になるほど、その隠密性は優れていました。
現在は登場から半世紀が経ち、後継の「バージニア級」が就役するにつれて、徐々に退役が進んでいます。62隻のうち、36隻が退役済み、2隻が訓練艦に変わり、現役なのは23隻です。
しかし、中国海軍の急速な戦力拡張、ロシア潜水艦との対峙を考えると、潜水艦隊の増強は急務であって、もしバージニア級の建造が滞れば、ロサンゼルス級はそう簡単に退役できません。
就役から時間が経つといえども、いまだ原潜としては全然役立ち、2026年の対イラン作戦においても、複数のロサンゼルス級が参加しました。
そこではトマホークの発射だけではなく、イランのフリゲートをスリランカ沖で捕捉、先述のMk48魚雷で撃沈しました。船体が真っ二つに折れてしまい、その映像は世界に衝撃を与えたほか、米潜水艦の魚雷攻撃という意味では、第二次世界大戦以来の出来事です。
この撃沈事案で分かりとおり、いまだロサンゼルス級の脅威は変わらず、その存在は全く軽視できません。なによりも、60隻超の運用ノウハウ、経験値の蓄積は否定できず、潜水艦隊を支える土台になっています。
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