国際秩序の崩壊を防ぐ
2022年2月、ロシアはウクライナに全面侵攻を行い、国際社会に大きな衝撃を与えました。国連の安全保障理事会の常任理事国として、本来は国際秩序を守るべきにもかかわらず、ひとつの主権国家を堂々と侵略しました。
これは第二次世界大戦以降、大国による中・小国の侵略を防ぎ、秩序維持を志向した歴史に逆行するものです。むろん、国際法・規範は万能ではなく、国際政治の厳しい現実を考えると、結局は「力」による裏付けが欠かせません。
ただ、人類は二度の世界大戦をふまえて、軍事力の行使に制限を課しながら、法の支配を目指してきました。たとえ建前であっても、それがあるとはないでは全然違い、一定のブレーキ作用は期待できました。
大国といえども、国際社会をガン無視するわけにはいかず、それなりの大義名分は必要です。決して完璧ではないにせよ、国際法や国際機構は曲がりなりには役立ち、侵略のハードルを高めてきました。
そのような建前もなくなれば、戦後秩序は崩壊の一途をたどり、いま以上に列強の意のままになります。中・小国は対抗手段のひとつを失い、再び草刈り場になるでしょう。
日本も戦後秩序の恩恵を享受しており、その武力変更は不利益どころか、死活問題につながります。日本が軍事大国ではなく、その他多数に該当する以上、国際法・規範に基づく世界を守り、自らの生存を確保せねばなりません。
ウクライナ侵攻を認めてしまうと、なし崩し的な秩序崩壊を招き、今度は別の侵略行為を誘発して、弱肉強食を許すだけです。被侵略者が泣き寝入り、侵略者が得する世界になれば、そのツケは日本にも巡ってきます。
このような単純な構図だからこそ、ウクライナ侵攻は決して他人事ではなく、「情けは人のためならず」です。
欧州に恩を売っておく
結局のところ、ウクライナ侵攻は欧州の問題にとどまらず、日本自身が侵略を受けたときはもちろん、台湾有事にも大きく関わってきます。
台湾や朝鮮半島で有事が起きた場合、日本は各国に支援を働きかける立場になり、それは遠くヨーロッパにもおよびます。アジアで起きうる危機に向けて、ウクライナ支援で欧州勢に恩を売っておき、将来的に借りを返してもらうのが狙いです。
ウクライナ支援は日本のためでもある
あまり知られていないものの、戦争初期にロシア産ガスが途絶えたとき、日本は輸入した天然ガスの一部を送り、ヨーロッパ各国から感謝されました。
狡猾な欧州諸国が「貸し」と思わず、恩を仇で返す可能性はあるとはいえ、外交上はやらないよりはマシです。外交的には選択肢が多い方がよく、保険をかけておくに越したことはありません。
平和主義を掲げる以上
また、日本が平和主義を掲げるならば、不当な侵略には断固反対したうえ、被害者を支援すべくでしょう。
平和主義といえば、憲法9条が知られていますが、前文にも重要なことが書かれています。
われらは平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う。われ らは全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
われらはいずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は普遍的なものであり、この法則に従うことは自国の主権を維持し、他国と対等関係に立とうとする各国の責務であ ると信ずる。
日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓う。
この前文と合わせて読めば、日本国憲法の掲げる平和主義像が見えてきます。
それは「日本さえ平和ならばよい」という独善的姿勢ではなく、国際社会の一員として、それなりの責務を全うする精神です。「一国平和主義」は独りよがりにすぎず、それは責任ある平和国家の姿とは違います。
憲法9条にもあるとおり、日本が目指すべき真の平和主義とは、「正義と秩序を基調とする国際平和」であって、被害者が泣き寝入りしたり、それを見捨てる世界ではありません。
さらに、日本も既存秩序の恩恵を受ける限り、これを守るのは受益者として当然でしょう。安定した秩序は求めるが、あまり責任は果たしたくない、というのは道理に反します。
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