基地をそのまま搭載
かつてソ連の核戦力と対峙した結果、アメリカはミサイル防衛に取り組み、現在は世界最高峰の防衛網を築きました。
ミサイルの早期警戒・探知にあたって、高性能な「Xバンドレーダー」を使うなか、アメリカではこれを水上艦船に積み、海上を移動するレーダー基地にしました。
これが「海上配備Xバンドレーダー」ですが、その見た目は通常の船とは違い、本当に基地をそのまま船に載せた感じです。
- 基本性能:海上配備Xバンドレーダー
| 排水量 | 約50,000t |
| 全 長 | 119m |
| 全 幅 | 73m |
| 全 高 | 85m |
| 乗 員 | 約85名 |
| 速 力 | 時速9ノット(時速17km) |
| 装 備 | Xバンドレーダー |
| 建造費 | 約1,500億円 |
この船はアメリカ本土防衛の一翼を担い、普段はロシア・中国・北朝鮮のミサイルを警戒するべく、アラスカ州・アリューシャン列島に配備されました。
アメリカ旅行した人は分かりますが、極東からアメリカに向かう場合、そのまま真東に一直線ではなく、アラスカ付近の北回りルートで飛びます。これはミサイルも変わらず、極東の情勢が怪しくなると、北太平洋で監視任務に就き、本土に向かう弾道弾を早期探知するわけです。
ただし、アラスカ配備は「書類上」にすぎず、実際はハワイ・真珠湾にいることが多く、事実上の母港になっています。
そのまま石油プラットホームを置き、白いドーム状の大型レーダーを載せた形ですが、この巨大建造物が時速17kmで海上を移動できます。海底油田を開発する場合、その上にプラットホームを置き、海上の掘削基地にする様子が見られますが、まさにそれを移動式にしたイメージです。
余談ながら、プラットホーム自体はアメリカではなく、なんとロシアで建造されたものを使い、この点でも非常に珍しいといえるでしょう。
このプラットホームに乗組員、民間の技術者が住み込み、ヘリポートや各種の生活設備のみならず、大型レーダーの消費電力を考えて、3.6メガワットの発電機を6基も備えました。
5,000kmの探知範囲
「なぜこれを動かせるのか?」の疑問はあるにせよ、本来は地上施設で運用するべきところ、海上移動式にしたことから、運用上の柔軟性は高まりました。
弾道ミサイルは地平線の彼方まで飛び、地上レーダーは言うまでもなく、イージス艦の能力をもってしても、最後まで追跡するのは厳しいです。
だからこそ、海上配備Xバンドレーダーの出番になり、その探知距離は約5,000kmと推定されています。
「Xバンド」とは周波数帯域のひとつであって、イージス艦が主に「Sバンド」、PAC-3システムが「Cバンド」を使うなか、短波長のXバンドは高い精度が特徴です。
Xバンドは他の周波数帯より解像度が高く、たとえ超遠距離の小型目標であっても、正確に探知・追跡してきました。一説によると、アメリカの東海岸に船を置いた場合、西海岸の上空の野球ボールを探知できるとか。
あまりにレーダー出力が強すぎるゆえ、地上付近では決して作動できず、周辺に人がいない洋上でしか使えません。この強力すぎるレーダーを使えば、数千km先の目標捕捉はもちろん、デコイ(欺瞞)との識別を行い、その着弾地点を分析・特定できます。
ミサイルの発射を察知すると、米本土のミサイル防衛局に情報を送り、すぐさま迎撃態勢に移行するため、その早期探知能力は欠かせません。
それでも、欠点はある。
一方、レーダーの強さとは異なり、見渡せる「視界(範囲)」は意外に狭く、指定方角から左右25度が限界です。イメージ的には巨大な望遠鏡に近く、遠くまで見通す能力がある代わり、一度に「全体」は見渡せません。
発射の兆候があるならどもかく、いつ・どこから撃たれるか分からない場合、的確な地点への配備が難しいです。
視界が限られている以上、ある程度は発射地域を予想せねばならず、全く別の方向から発射されたり、多方向からの同時発射には対処しきれません。しかも、石油プラットフォーム由来の船は遅く、別の地点に緊急展開はできません。
なお、能力面でも万能ではなく、ミサイルと別の物体を混同したり、迎撃テストの結果を把握できないなど、問題がないわけではありません。
日本近海にも出没
この移動基地の配備は2006年に始まり、長期間にわたって試験運用するなか、北朝鮮の怪しい動向を受けて、何度も北太平洋に緊急展開しました。
詳しい位置は不明ながらも、警戒監視の過程で日本列島にも近づき、在日米軍とも連携していたと思われます。
ハワイに入港した様子(出典:アメリカ海軍)
本来はアメリカ本土防衛用とはいえ、対北朝鮮の監視で使う以上、北太平洋への実働は欠かせず、結果的に母港のアラスカではなく、ハワイが事実上の拠点になりました。
白い巨大なレーダーが入港する姿からか、ハワイの住民は「真珠湾の真珠」「ゴルフボール」と呼び、異様な自国の艦船に見慣れているようです。


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