有事は出動する「幽霊艦隊」
世界最強・アメリカを支える海軍艦隊のうち、あまり知られていないのが退役艦船を一時保管している「予備艦隊」です。
幽霊艦隊とも呼ばれるこの部隊の正式名称は、アメリカ海軍予備艦艦隊(United States Navy Reserve Fleet)であり、最盛期には数百隻もの艦船が属していました。
アメリカは第二次世界大戦で自慢の工業力をフル活用したところ、他国の追随を許さない圧倒的な海軍戦力を揃えたものの、戦後はこれら大量の船舶を持て余します。
これら余剰戦力の一部は売却・破棄されましたが、再び必要となる可能性を考えて一時保管(モスボール化)する方針をとりました。
こうして戦争終結後にできた予備艦隊は、戦時量産された駆逐艦のみならず、空母や戦艦、巡洋艦まで組み込み、予備戦力だけで他国海軍を上回ることになりました。
モスボール対象船は、それぞれ再動員の可能性に基づいてグループ分けされたあと、数カ所の洋上地点で係留されます。そして、割り当てられる維持管理費の優先順位はグループによって異なりました。
こうした係留船は劣化を防ぐ特別加工や定期メンテナンスが欠かせない一方、いざというときは短期間で再整備して復帰できました。それは最初から建造するよりは時間やコストを節約できるとともに、すばやさが求められる戦時には向いていたといえます。
冷戦期には第二次世界大戦時の戦艦が改復・復活しており、1991年の湾岸戦争では実戦投入されて艦砲射撃などを行いました。
貨物船中心の予備艦隊も
ここで注意したいのが、予備艦隊と呼ばれるものが複数ある点です。
前述の予備艦艦隊は戦闘艦艇を中心としたものですが、ほかにも貨物船で構成される国防予備船隊(National Defense Reserve Fleet)というのが存在します。こちらは戦時量産された貨物船を集めたのが始まりで、最盛期の朝鮮戦争時には2,200隻以上もの船を保有していました。
その目的は予備艦艦隊と同じとはいえ、国防予備船隊は海軍ではなく運輸省傘下の海事局になります。
旧式軍艦よりも貨物船の方が需要と出動機会が多く、朝鮮戦争で500隻以上が投入されたのを皮切りに、ベトナム戦争や各地の食糧危機でも活用されました。
さらに、1976年には国防予備船隊から特に状態のいい船を抽出して、「即応予備船隊」という緊急出動向けの別部隊まで編成しました。
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