燃料気化弾を放つ自走火砲
ウクライナに全面侵攻したロシアは、千両単位の戦車や装甲車、そして大量の兵士を失いました。
こうした苦戦のなか、ウクライナ軍に対して猛威をふるい、珍しく戦果をあげているのが、自走多連装ロケットシステム「TOS-1」です。
- 基本性能:TOS-1A
重 量 | 45.3t |
全 長 | 9.5m |
全 幅 | 3.6m |
全 高 | 2.22m |
乗 員 | 3名 |
速 度 | 60km |
行動距離 | 550km |
兵 装 | 220mm燃料気化弾×24 |
射 程 | 最大10km |
価 格 | 不 明 |
TOS-1はロシア語で「重火力投射システム」を意味するもので、T-72戦車の車体に220mmの燃料気化ロケット弾(サーモバリック・ロケット)を搭載した自走ランチャーです。そして、システム全体はランチャーを乗せた車両と予備弾を積んだ弾薬補給車で構成されます。
少し歴史をたどると、TOS-1はソ連がアフガン侵攻で苦戦したとき、相手ゲリラの陣地などを近距離から掃討する目的で作り、すでに1989年頃には実戦投入されました。
恐ろしいのは燃料気化ロケット弾を用いている点ですが、これは燃料化合物をガスと粉じんに気化させてから、気圧差を利用して大きく爆発させる気体爆薬の一種です。
TOS-1が放つ燃料気化ロケット弾の恐ろしさは、巨大爆発にともなう高熱の火玉と強烈な爆風だけではなく、急激な気圧差がもたらす人体損傷と酸欠の危険性にあります。
運よく最初の爆発を生き延びたとしても、内臓などへのダメージはまぬがれず、爆発直後は周りの酸素が一気に吸い上げられて酸欠状態になるのです。
TOS-1Aが射撃する様子(出典:ロシア国防省)
そして、いま使われている改良型の「TOS-1A」はわずか6秒で24発ものロケット弾を撃ち尽します。
無誘導式のロケット弾は精密射撃には不向きとはいえ、その高い連射能力と気化爆薬を使った制圧力はすさまじく、1発で半径30mの範囲を焼きつくすそうです。
すなわち、人員・車両がいるエリア、建物や防御陣地などを「面」で制圧するスタイルですが、1回の斉射でカバーできる範囲は約4万平方メートルといわれています(東京ドームよりひとまわり小さいぐらい)。
特殊だからこそ厄介
特殊な気体爆薬を使う関係から、TOS-1は他の多連装ロケット砲のように砲兵部隊ではなく、専門性の高い化学防護部隊に配備されています。そして、その使い方も通常のロケット砲とは異なり、後方ではなく最前線まで進出して目視距離からロケット弾を撃ち込みます。
射程距離も最大10kmと火砲にしては短く、砲兵戦よりも拠点制圧に向いています。しかし、短時間で強力な打撃を与えて、防衛線に穴を開けるという意味では戦車などよりも厄介でしょう。
もちろん、優先目標として早期発見・破壊を目指していて、現時点でウクライナ側は14両を破壊、3両を鹵獲しました。ロシアの保有数が約50両と推測されるなか、この損害は決して小さくありません。
条約で禁じられておらず
TOS-1は気化爆弾を用いた残虐な兵器ではあるものの、化学兵器などを禁じた条約には引っかかっておらず、国際法上はあくまで「合法」なのです。
ところが、ロシアはこの高い殺傷能力を持ち、無誘導の燃料気化ロケット弾を市街戦でも使用しており、民間人で多数の犠牲者が出ました。こうした使い方はむろん国際法違反で、TOS-1の残虐性そのものを懸念する西側諸国では禁止を求める声が上がっています。
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