装甲なし?自衛隊の1トン半救急車の医療能力ついて

陸上自衛隊
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悪路に強く、より多く収容

地上戦闘で多くの負傷者が出る以上、軍隊には野戦病院までの搬送手段が欠かせません。本来であれば、ヘリなどで運ぶのがベストですが、状況次第では陸送せねばならず、そのときは救急車の出番になります。

そのため、自衛隊も救急車を保有しており、英語では「アンビランス(Ambulance)」になることから、部隊内では「アンビ」と呼ばれてきました。

一般的な救急車をOD色に塗装しただけのタイプもあるなか、いわゆる野戦で使われるのが「1トン半救急車」です。これはよくある73式中型トラックを改造したもので、衛生科部隊の野戦救急車として活躍しています。

  • 基本性能:1トン半救急車
全 長 6.03m
全 幅 2.22m
全 高 2.87m
速 度 時速115km
乗 員 運転席:2名
後 部:担架5名分/座席8名分
設 備 人工呼吸器・AED、酸素ボンベ、
生体情報モニター、外傷用衛生器材、
応急処置用のキット・医薬品類など

通常の73式中型トラックと違って、救急車タイプは完全密閉式のデザインになり、自衛隊車両として珍しく、サイレンを鳴らしながら一般道を緊急走行できます。

車両後部には左右それぞれに2段ベッドがあって、真ん中の床部分も用いれば、最大5つの担架を収容可能です。これらベッドを折りたためば、最大8名分の座席を確保できるほか、現場への医療品の輸送にも使われてきました。この後部エリアと運転席はドアでつながり、通常は看護・救急救命士の資格を持つ衛生隊員が乗り込みます。

医療器材は普通の救急車とあまり変わらず、人工呼吸器・AED、脈拍や心電図を表す生体情報モニター、基本的な衛生キット、応急処置用の医薬品、酸素ボンベなどが搭載されています。すなわち、通常の救急車と同じ医療能力を持ち、後方の野戦病院まで搬送する間、応急処置で容体を安定させるのが務めです。

訓練中の野戦救急車(出典:陸上自衛隊)

一方、野戦向けとして悪路には強く、スペアタイヤと予備燃料も搭載しています。とりわけ、2003年以降の車両は高機動車と同じ車体になり、その足周りが強化されました。新しい車両ではギアチェンジがオートマチック式へ、タイヤは損傷しても耐えられるタイプに変更されました。

救急車としての乗り心地、運転性能もよくなったうえ、自衛隊車両では貴重品のエアコンも完備されました。この改善により、患者は少しは快適に過ごせるようになり、気象条件に対する最低限の耐性は確保しました。

以上をまとめると、1トン半救急車は通常より収容能力が大きく、非舗装道路での走破に長けています。

装甲がないのが弱点?

しかしながら、戦場で活動するにもかかわらず、1トン半救急車は装甲を持っておらず、敵からの攻撃や流れ弾に無防備な状態です。

もちろん、敵の攻撃を避けるべく、その車体の前後左右には大きな赤十字を描き、国際条約下の保護対象になっています。いわゆる戦争のルールを定めたジュネーブ条約において、赤十字マークをつけたものは攻撃してはならず、それゆえ衛生部隊などの一部しか使用できません。

こうしたルールがあるとはいえ、その有効性は決して万能ではなく、残念ながら戦地では赤十字マークが何度も攻撃されてきました。誤爆にせよ、意図的にせよ、最近でもロシア軍による攻撃が問題になり、逆に大きな赤十字は狙われやすいという側面も否めません。

ウクライナでは装甲・非走行を問わず、救急車が戦場を駆け巡り、多くの命を救っています。ただ、多くの砲弾や銃弾が飛び交い、しばしば「誤認攻撃」も行われる以上、やはり装甲があるには越したことがありません。たとえば、M113などを転用した装甲救急車が最も頼もしく、戦場では活躍しているのが実態です。

このような教訓をふまえて、自衛隊でも野戦救急車の装甲化が始まり、まずは既存車両に装甲材を付ける予定です。いまのところは装甲救急車がなく、この分野では遅れているため、将来的には装甲車を改造したタイプが開発されると思われます。

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