破壊・吹き飛ばす大火力
ロシアはソ連時代から「火力=正義」の考えを持ち、それは火砲群の充実ぶりからも分かります。この火力重視はウクライナ侵攻でも変わらず、優勢な砲兵戦力で破壊しながら、ジワジワと戦線を押してきました。
そんな火砲群のうち、特に大きな破壊力を持つのが「2S4チュパリン」です。これは240mmという大口径を誇るものの、一般的な自走榴弾砲ではなく、自走迫撃砲の部類に入ります。
自衛隊にも96式自走迫撃砲がありますが、こちらは120mm砲になるため、口径だけでも2倍の差があります。
- 基本性能:2S4チュパリン自走迫撃砲
重 量 | 27.5t |
全 長 | 7.94m |
全 幅 | 3.25m |
全 高 | 3.22m |
乗 員 | 9名(本体4名+支援車両5名) |
速 度 | 時速60km |
行動距離 | 500km |
兵 装 | 240mm迫撃砲×1 12.7mm機関銃×1 |
射 程 | 最大18km(通常は約10km) |
射 界 | 仰角:45〜80度 左右:それぞれ8度 |
発射速度 | 毎分1発 |
チュパリンはロシア語で「チューリップ」を意味するも、その可愛らしい名前とは違って、世界最大の迫撃砲として恐れられてきました。その生産は1959年に始まり、1988年には終了した古い兵器です。
しかしながら、130〜225kgの砲弾を約18km先まで撃ち込み、周辺をなぎ倒す威力があります。通常は約10km以内の目標を狙い、それより遠方は精度は低くなりますが、圧倒的な破壊力で誤差ごと吹き飛ばす形です。
移動時は砲身をたたみ、射撃時に車体後方に起立・展開させながら、砲床という下の部分を地面に接地させます。それゆえ、車体は目標に対して後ろ向きになり、通常の自走榴弾砲とは逆の光景です。
一応、砲弾を押し込む補助装置があるとはいえ、装填時は砲身を水平に戻すため、発射速度は毎分1発と遅く、9人がかりで操作せねばなりません。
チュパリンは通常弾に加えて、建物・陣地などを狙う徹甲弾、化学砲弾、そして核砲弾まで対応しており、戦闘時は約40発分の弾薬とともに行動します。最近ではレーザー誘導弾も使い、ウクライナ侵攻時には一定の戦果をあげました。
戦場で待ち受ける厳しい運命
ソ連では約450両が生産されたあと、アフガニスタン侵攻で実戦投入されたり、NATOとの野戦に備えて配備されました。ソ連崩壊後はロシアが大半の車両を引き取り、2度のチェチェン紛争で反乱軍の陣地や都市ごと破壊しています。
2010年代でも約40〜50両が現役だったほか、150両以上が予備兵器として保管されていました。そして、ウクライナ侵攻時は2S7ピオン自走砲とともに、ロシア軍の重砲兵旅団の一翼を担い、村落や街に対する攻撃に使われました。
一方、鈍重なチュパリンは絶好のターゲットになり、ウクライナ軍がドローンで簡単に見つけたあと、すぐさま対砲兵射撃で反撃・破壊しています。
大きな破壊力を持つとはいえ、自走榴弾砲よりは射程が短く、その分だけ最前線に近付かなければいけません。これは現代砲兵戦では致命的欠点であって、少なくとも50両以上が撃破されました。
倉庫から引っ張り出したところ、前線での稼働数は30〜40両台で推移中ですが、すでに生産が終わった中古品に頼っている以上、いずれ消えてなくなる運命です。
保管状態が悪ければ、その車両は部品取り以外には使えず、実際の投入可能数が底を尽くなか、貴重な稼働車両は西側の自走砲や高機動ロケット砲、自爆ドローンの餌食になっています。
火力の重要性は変わらずとも、現代戦はすぐに発見・反撃されることから、もはや機動力の乏しいは火砲は生き残れません。
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