初の量産型の原子力空母
アメリカ海軍の強さといえば、巨大な原子力空母が思い浮かび、そこで運用される多くの戦闘機です。現在運用中の原子力空母11隻のうち、10隻は「ニミッツ級」というタイプになり、まさにアメリカの力の象徴といえます。
- 基本性能:ニミッツ級原子力空母
排水量 | 74,000t(基準) 100,000t(満載) |
全 長 | 333m |
全 幅 | 89.4m |
乗 員 | 約5,600名 |
速 力 | 31ノット(時速58.3km) |
兵 装 | 20mm CIWS×2 8連装シースパロー発射機×2 SeaRAM発射機×2 |
艦載機 | 約70〜90機 |
建造費 | 約7,500億円 |
同型艦 | 10隻 |
ニミッツ級は1975年に就役した超大型空母ですが、量産型の原子力空母としては世界初でした。世界中で数々の軍事作戦を行い、アメリカの戦力投射を支えてきた実績から、もはや「空母=ニミッツ級」というイメージさえ定着しました。
太平洋戦争の英雄であるニミッツ提督の名前を持ち、10隻中7隻は歴代大統領の名前がつけられました。
10万トン以上の巨体には約5,600人が乗り込み、2基の原子炉で動かしながら、世界中を航行してきました。この原子炉は25年間は交換しなくてよく、理論上は無限の航続距離を誇り、生み出した大量の蒸気は艦載機の発進に使います。
食糧の補給を考えれば、実際の活動限界は約3ヶ月ですが、広い艦内には商店からジム、床屋、歯医者などがそろい、もはや海上を動くひとつの街です。
「完成された空母」という評価
さて、ニミッツ級は普段から70機近くを運用しており、最盛期には最大90機を搭載していました。
F/A-18戦闘機を中心にしつつも、早期警戒機や電子戦機、哨戒ヘリで戦闘航空団をつくり、洗練された戦闘力を発揮します。その数もさることながら、円滑な運用能力もふまえると、中規模国家の空軍に匹敵する戦力です。
この航空戦力を効率的に運用すべく、4つの蒸気カタパルトとアレスティング・ワイヤーで発着艦を行い、その出撃回数は1日で最大240回にのぼります。
また、広い飛行甲板にはクルーが並び、役割に合わせた色の服を着ていますが、これは視認性に加えて、作業効率を高めるのが狙いです。
太平洋戦争で日本海軍と戦って以降、アメリカは空母運用では他の追随を許さず、その長い過程でいろんな教訓を得てきました。このような運用実績に基づき、考え抜かれた作業手順や動線を使い、最も効率的な運用態勢を確立しました。
運用設計的には完成形?(出典:アメリカ海軍)
航空機の性能は言うにおよばず、これら運用実績・効率という点においても、ニミッツ級は最強の空母といえます。
従来型と比べた場合、航続距離から作戦能力、信頼性で進化を遂げており、このニミッツ級の設計をもって、「空母」は完成したとさえ評されました。
一方、単独では最低限の自衛兵器しか持っておらず、活動時にはイージス艦とともに打撃群を組みながら、その防空・対潜能力に依存せざるをえません。この点はニミッツ級に限らず、どの空母も似たり寄ったりですが。
その戦歴と気になる後継
ニミッツ級空母は冷戦期から現代にいたるまで、ほぼ全ての戦争・紛争で重要な役割を果たしており、アメリカの軍事力の象徴ともいえます。
アメリカの軍事作戦は空爆から始まり、ほとんどの事例で空母が使われてきました。ひとつの国家並みの航空戦力を持ち、それを移動して投入できる利点は大きく、相手にとっては脅威でしかありません。
だからこそ、アメリカが仮想敵国を抑止したり、不安定地域でプレゼンスを示す場合、あえて原子力空母を送り込み、分かりやすい圧力をかけます。たとえば、対北朝鮮では日本海に最大3隻も集まり、南シナ海も定期航行して中国をけん制してきました。
メンテナンスと休息を考えれば、常時稼働中なのは最大3〜4隻ですが、こんな空母をアメリカは11隻も保有しているわけです。空母単体の建造費だけで7,500億円かかり、艦載機なども合わせたら、さらに3,000億円近くを要します。
どんな兵器も作って終わりではなく、原子力空母の年間維持費は800億円になり、ひとつの空母打撃群を維持するには1兆円/年いるそうです。まさに超大国・アメリカにしかできません。
ニミッツ級(奥)と最新のフォード級(手前)
そんなニミッツ級の耐用年数は50年であるため、1975年就役の1番艦はそろそろ退役の時期です。すでに後継の「ジェラルド・フォード級空母」の建造が進み、1番艦は2017年の就役以降、訓練を重ねて戦力化を果たしました。
フォード級が順次就役するとはいえ、ニミッツ級の全更新までは先が長く、しばらくはアメリカの戦力投射能力を支えつづけます。

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