本来は量産コストを重視
ソ連の原子力潜水艦を圧倒すべく、アメリカは最強クラスの「シーウルフ級」を開発しますが、あまりに価格が高すぎたことから、わずか3隻で打ち切られました。
そこで、少し性能を抑えながらも、量産コストを優先したところ、2004年には「バージニア級」が登場しました。
- 基本性能:バージニア級原子力潜水艦
水中排水量 | ブロック1〜4:7,900 t ブロック 5:10,200 t |
全 長 | ブロック1〜4:115m ブロック5:140m |
全 幅 | 10m |
乗 員 | 135名 |
速 力 | 25ノット(時速46km) |
潜航深度 | 約450m |
兵 装 | 魚雷発射管×4 ミサイル垂直発射装置×12 |
建造費 | 1隻あたり約1兆円 |
冷戦終結とソ連崩壊にともなう予算縮小を受けて、バージニア級は民生品を活用したり、船体パーツを交換可能なモジュール式にするなど、コスト削減に取り組みました。また、原子炉の核燃料棒は艦寿命と同じ30年期限になり、長期にわたる交換工事が不要になりました。
ロサンゼルス級の設計を踏襲しつつも、新しい推進システムで静粛性が高まり、この点はシーウルフ級に匹敵します。ただし、シーウルフ級より水中速力は落ちたほか、船体用の鋼材も価格を重視したため、最大潜航深度は落ちました。
一方、潜望鏡は非貫通型というタイプですが、これは従来の光学潜望鏡と違って、船体に穴を開ける必要がなく、耐圧強度の向上につながりました。
バージョンで異なる性能
さて、気になる兵装面については、魚雷発射管4門とトマホーク用のVLS×12を持ち、敵を欺くためのデコイ発射筒も15基あります。搭載数は魚雷25本、トマホーク12発となり、シーウルフ級に比べたら少ないものの、ロサンゼルス級とは変わりません。
しかしながら、バージニア級にはブロック1〜4のタイプがあって、それぞれ兵装や性能も若干異なります。
たとえば、ブロック5には新しい武器モジュールを組み込み、トマホークの最大搭載数は40発に増えました。その代わり、価格は初期型の3,000億円から1兆円近くまでハネ上がり、もはや空母並みの建造費になりました。
ほかにも、ソナーや推進機器が違うなど、同じバージニア級であっても、初期型と最新型では一定の性能差がみられます。このあたりはトマホークやイージス艦と変わらず、基本設計さえ優れていれば、改良次第で現代にも通用するわけです。
攻撃型原潜として十分な攻撃力を持ち、アメリカ潜水艦隊の主力を務めていますが、通常の対水上・対潜戦だけでなく、特殊部隊の支援という役割も帯びました。
ネイビー・シールズなどを運び、海から陸地に侵入させるべく、船内には特殊部隊用の居住区があり、最大40名ほどを収容できます。そして、特殊部隊の水中出撃を考えて、エアロック・チャンバーや減圧室も備えました。
2070年代まで現役予定
老朽化するロサンゼルス級を更新すべく、計66隻のバージニア級が計画されており、すでに24隻が任務に就いています。コストが上がっているとはいえ、ロサンゼルス級以上、シーウルフ級以下の性能を持ち、その目的は果たしたといえるでしょう。
そんなバージニア級の調達は2043年まで続き、少なくとも2070年代までは活動する予定です。その間も近代化改修を行い、最新技術を盛り込んでいきますが、いずれにせよ21世紀を通してアメリカの主力原潜になります。
また、米英豪の新同盟(AUKUS)において、オーストラリアの原潜保有が決まり、その有力候補としてバージニア級の購入が検討されました。もし自国開発が上手くいかず、オーストラリアの原潜保有が遅れた場合、バージニア級で穴埋めする可能性が高いです。
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