地下施設の整備を急ぐ
台湾有事の可能性が高まり、防衛体制の見直しを迫られるなか、日本は民間人保護の課題に向き合わねばなりません。特に沖縄の先島諸島は台湾に近く、その近距離から直接的な戦場にはならずとも、事実上の「戦域」には含まれるでしょう。
それゆえ、中国軍のミサイルや航空機が飛び交い、「誤爆」される可能性は否めません。このような事態から住民を守るべく、日本政府は先島諸島に地下シェルターを整備して、一時的に避難できるようにします。
尖閣諸島に近い石垣島の例をあげれば、鉄筋コンクリート製の地下施設を市役所の横に作り、最大500人を収容できる見込みです。普段は駐車場として使いながらも、戦時では防空壕としての役割を持ち、災害時も避難所として活用できます。
台湾や尖閣諸島への距離を考えれば、これまでなかったのがおかしいぐらいですが、ようやく日本も戦時下の住民保護に乗り出した形です。まずは、先島諸島から優先的に整備したうえで、いずれは沖縄本島や他の南西諸島に広げるものと思われます。
一方、戦域から離れているとはいえ、東京や大阪なども攻撃されかねず、都市部の避難施設も拡充せねばなりません。これらは人口集中地帯である以上、敵の標的にはなりやすく、日本としても全力で防護すべきエリアです。
言うまでもなく、民間人への攻撃は国際法違反にあたり、決してあってはならない事態です。
しかし、実際の戦争・紛争では違反行為が相次ぎ、直近のロシア=ウクライナ戦争でも、ロシア軍は一般人や民間施設を意図的に攻撃しています。
たとえ故意でなくとも、「誤爆」と言い張りながら攻撃する、あるいは行為そのものを否定するでしょう。そのウクライナ侵攻でも分かるとおり、国際社会は批判こそすれども、実際は何もできていません。
「やったもの勝ち」という状況ですが、それが世界の厳しい現実です。
こうした実態をふまえると、北朝鮮がミサイルを飛ばしてきたり、中国が恫喝目的で限定攻撃する可能性はあります。
特に台湾有事についていえば、日本が果たす役割は大きく、日米同盟を通じて協力・参戦するかどうかで戦局が変わります。
したがって、台湾有事で日本の世論を揺さぶり、関与させない方向に持ち込むべく、あえて都市部にミサイルを飛来させるかもしれません。日本には「平和主義=何もしない」と思い込み、「1発だけならば誤射」という考えの人々がいますから。
では、都市部の整備状況はどうなのか?
大都市には地下鉄が走り、駅構内や地下街は緊急避難施設として使えます。他国と比べた場合、その深さと堅牢さは心許ないものの、地上よりは安全性が高く、一時的には危険をしのげます。
ただし、避難できる地下施設数は足りておらず、そもそもの想定マニュアルすらありません。どれほどの人数を、どのように避難させながら、どれだけ長く収容できるのか。具体的な避難計画がなく、人々の意識にも浸透していない以上、現状では場当たり的な対応になるだけでしょう。
結局のところ、使えそうな地下施設はあれども、その活用については手付かず状態です。
しかも、これは通常兵器の場合であって、核攻撃となれば話が別です。
普通の防空壕とは異なり、核シェルターでは分厚い防爆扉に加えて、放射能に対応した換気システムが欠かせません。
日本は核保有国に囲まれているうえ、冷戦期は前線国家だったにもかかわらず、ほとんど核シェルターがなく、その普及率はわずか0.02%です。
本土に避難民を輸送
シェルター建設と並行しながら、政府は本土への住民避難も検討中です。
避難計画とは言いながら、これは事実上の「戦時疎開」にあたり、太平洋戦争以来の出来事になります。
台湾有事が迫ってきたら、先島諸島から最大12万人を避難させて、九州と山口県内に一時移ってもらうそうです。すでに日本政府からの要請を受けて、福岡県では計画立案が進み、ホテルや公営住宅の確保に動いています。
わずか6日間で12万人を運ぶべく、各空港から民間機を飛ばすとともに、自衛隊の輸送機も投入します。ただ、さすがに空輸だけでは対応できず、海上輸送にも頼らざるをえません。
そして、2万人/日というノルマに向けて、政府は2027年度から避難訓練を行い、住民側の意識を高めたり、実際の動きを確認する予定です。
いくら輸送手段を確保しても、住民がスムーズに動けなければ、避難計画は破綻してしまいます。このあたりは災害時の避難と同じく、住民側の協力や意識も大きく影響するわけです。
なお、どのような手段を使っても、自衛隊による護衛が欠かせず、状況次第では中国側に事前通告を行うでしょう。
沖縄から本土への集団疎開といえば、太平洋戦争中も実施されたものの、1944年8月に「対馬丸」が潜水艦の雷撃で沈み、子供784人を含む計1,484人が亡くなりました。
台湾有事では沖縄周辺は戦域に入り、誤認攻撃や恫喝を受ける可能性は高いです。逆に中国軍と交戦するかはわからず、中国側も民間人の犠牲を出して、日本の参戦を招くような事態は避けたいはずです(少なくとも初期段階では)。
いずれにせよ、十数万人の本土移送は容易ではなく、きちんとした計画に基づきながら、十分な護衛戦力をあてるべきです。再び沖縄からの疎開という点に歴史の残酷さを感じますが、対馬丸の悲劇を繰り返してはならず、自国民の生命を守る戦後日本の使命を果たさせねばなりません。
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