超重武装の大型巡洋艦
ソ連は圧倒的な陸軍を誇りながら、海軍力ではアメリカに大きく劣り、これが弱点とされていました。そこで、ソ連周辺の制海権だけでも確保すべく、1970年代にはソ連海軍の拡張が始まり、1980年代には最盛期を迎えました。
特に「キーロフ級」ミサイル巡洋艦は脅威として映り、「空母キラー」として恐れられていました。
- 基本性能:キーロフ級ミサイル巡洋艦
排水量 | 24,300t(基準) |
全 長 | 252m |
全 幅 | 28.5m |
乗 員 | 720名 |
速 力 | 32ノット(時速59 km) |
兵 装 | 130mm連装砲×1 30mm機関砲×6 対艦ミサイル×20初 長距離対空ミサイル×96発 短距離対空ミサイル×40〜64発 対潜ミサイル×16発 対潜ロケット×22発 533mm魚雷発射管×10 |
艦載機 | ヘリコプター×3 |
建造費 | 不明 |
キーロフ級は1980年に就役が始まり、原子力巡洋艦として5隻が起工されたものの、ソ連崩壊による大混乱を受けて、最終的には4隻に削減されました。
それでも全長252m、基準排水量24,300トンを誇り、日本の「いずも型」護衛艦より大きく、空母以外では戦後最大の水上戦闘艦です。ソ連は巨大な船体を活かして、多くの兵装を盛り込み、強力な打撃力と高い防空能力を備えました。
NATO側の航空攻撃を防ぎ、アメリカの空母を撃沈するべく、キーロフ級は長射程の対空・対艦ミサイルを持ち、垂直発射システム(VLS)でステルス性を確保しています。
対艦用の「P-700グラニート」は最大700km先まで届き、核弾頭タイプもありますが、全部で20基も搭載しました。これを衛星システムに連接しながら、NATO艦隊に向けて一斉に放ち、原子力空母に対する精密攻撃を狙います。
一方、対空戦闘では多くの兵器を使い、多層的な防空体制を目指しました。それは射程100〜200kmの「S-300F」に始まり、短距離用の防空ミサイル、130mm連装砲、30mmバルカン砲と続きます。
おそろしいのが、長射程のS-300Fだけで96発もあって、短距離ミサイルは40〜64発、30mmバルカン砲は6基も搭載しています。大量のミサイルで分厚い防空網を築き、半径200kmの海域に敵機を寄せつけません。
防空艦として敵をけん制しながら、対艦攻撃(打撃任務)を重視するとはいえ、キーロフ級は対潜戦闘も軽視しておらず、16発の対潜ミサイルに加えて、対潜ロケット砲と魚雷を積みました。なお、最大3機のヘリコプターを搭載できるため、一定の航空運用能力を持ち、上空からの対潜哨戒に使う構想です。
珍しい装甲とステルス性
重武装だと被弾時の誘爆リスクが大きく、キーロフ級はミサイル発射機や原子炉周辺など、重要箇所には最大100mmの装甲を施しました。
現代艦船の多くは装甲がなく、ほとんどペラペラである点を考えると、「重武装+装甲化」はかなりレアといえるでしょう。
しかも、先進的なステルス性を実現するべく、全体的に傾斜をつけた設計になり、VLSとともにレーダー反射を抑えました。実際のところ、NATO側のレーダーがとらえたとき、その巨体は「1/10」の2,000トン級にしか映らず、当時としては異例のステルス性を発揮しました。
進まない近代化改修
ここまで見ると、なにやら「最強の軍艦」に思えますが、キーロフ級は表面上の強さとは違って、その人生は紆余曲折と問題ばかりです。
1980年代こそ活発に稼働したものの、ソ連崩壊以降はほとんど港に引きこもり、その間にどんどん老朽化が進みました。最後の4番艦にいたっては、何度も建造が中断するなど、財政難と社会混乱の余波をもろに受けました。
ロシア経済の復調にともない、活動の復活が期待されましたが、海軍の予算不足は変わらず、1・2番艦は退役に追い込まれました。
一方、3・4番艦は近代化改修が決まり、3番艦の「アドミラル・ナヒーモフ」は25年にわたる工事のあと、ようやく2025年に戦列復帰しました。その代わり、4番艦「ピョートル・ヴェリーキイ」が長期改修に入り、結局は3番艦しか稼働していませんが。
改修計画は大掛かりなもので、VLSを174基に増やしながら、超音速巡航ミサイルも装備しました。対艦・対空ミサイル、電子機器と各システムの更新を行い、現代戦に対応したとはいえ、3番艦の改修費用は800億円以上にふくらみ、完了時期は何回も延期されてきました。
ウクライナ侵攻で苦しみ、財政的に余裕がない点を考えると、4番艦の近代化改修はもっと時間がかかるでしょう。
ウクライナで多すぎる人員・装備を失い、陸軍戦力の再建が最優先となる以上、海軍は後回しになってしまい、ロシア唯一の空母「アドミラル・クズネツォフ」とともに、キーロフ級の活動は低調にならざるをえません。
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