スパイ防止?国家情報局でインテリジェンス能力を強化へ

情報機関のイメージ 外交・安全保障
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「縦割り」の是正を

高市政権の発足にともなって、安全保障政策の見直しが急速に進み、インテリジェンス分野も含まれています。これは高市首相の意向に加えて、維新の会が「対外情報庁」を提唱するなど、新しい連立政権による影響ですが、「国家情報局」の創設に向けて動き出しました。

インテリジェンスの概要、大まかな手法は以前の記事で書き、そちらを参照してもらえればと思います。

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さて、新しい国家情報局は「司令塔」になるべく、各省庁・機関から情報が集まり、これを一元的に分析・評価します。

それでもなお、NSCは各省庁が情報を持ち寄り、あくまで提供する意味合いが強く、互いに省益を気にして出し惜しみ、国家規模の指揮・集約には不十分でした。

それゆえ、内閣主導のインテリジェンス強化を目指して、先述の内調が国家情報局に生まれ変わり、NSSと同格扱いになるとともに、各省庁に対する指示権を与えます。新しい国家情報局長は首相の直轄に置き、その立ち位置は他の機関と同格ではなく、頭ひとつ抜きん出た「上位者」になる形です。

もちろん、それで縦割り意識が取り払われたり、各機関がすんなり言うことを聞くわけではないものの、大きな前進なのは間違いありません。

スパイ防止法の制定

次に「上がらない、回らない、漏れる」のうち、漏洩部分を抜本的に対処するべく、いよいよ「スパイ防止法」に向けて動き出しました。維新の会との連立合意書を覗くと、そこにはスパイ防止の推進が書かれており、本格的な法案整備が始まると思われます。

スパイ防止法といえば、かつて自民党が「国家秘密法」の制定を試み、1985年の国会に提出しましたが、野党や左派勢力の反対で審議できず、そのまま廃案になりました。

このスパイ防止法の不在により、日本は出入国管理法や旅券法、不正競争防止法、外国為替管理法、外国人登録法など、個別の法律で逮捕・起訴するしかなく、不都合な運用を強いられてきました。

なによりも、これら法律は比較的刑罰が軽く、数年の懲役や罰金刑で済むことから、事実上の野放し状態になっています。

直近の国政選挙を見ても、外国勢力による工作疑惑が浮かび、選挙介入を許している感が否めません。諸外国ではエージェント法を敷き、外国の代理人がロビー活動などをする場合、あらかじめ登録を義務づけていますが、日本は十分に対処できない法体制です。

近年は「特定機密保護法」「経済安保法」の制定を行い、各分野ごとに対応したとはいえ、全体を包括する法整備が遅れている限り、スパイ天国の現状は改善されません。

しかも、情報漏洩に対する罰則はあれども、情報を探る活動の罰則化は進まず、事前に防ぐのは難しいままです。

特に他国との情報共有・連携を考えると、スパイ防止法の不在は障壁でしかなく、同盟と準同盟強化の阻害要因です。

たとえば、アメリカはイギリス、オーストラリア、ニュージーランド、カナダとインテリジェンス同盟を結び、「ファイブ・アイズ」として知られており、ここに日本を加える構想は以前から浮上しています。

ところが、日本にスパイ防止法がない以上、どうしても情報漏洩のリスクが否めず、「シックス・アイズ」は実現できていません。スパイ防止法ができると、少なくとも諸外国並みには諜報活動を防ぎ、他国との情報共有のハードルは下がるでしょう。

反対派の懸念と飛躍理論

スパイ防止法の話になると、メディアを中心に反対意見が起こり、戦前回帰の印象を与えようとします。こうした懸念は一理あるとはいえ、「監視国家」「独裁体制」「民主主義の終わり」と叫び、いたずらに国民の不安を煽ってきました。

特定機密保護法をふり返ると、似たような論調が見られましたが、実際は市民生活に支障は出ていません。すでに施行から10年以上が経ち、法が運用されているなか、甚大な人権侵害、自由の制限はあったでしょうか?

同じ話は安保法制にも当てはまり、当時は「戦争国家になる」の大合唱でしたが、結局は単なる「狼少年」に終わりました。

毎度のごとく大げさに騒ぎ、国民の不安を刺激してきますが、これは党派性に基づく扇動にすぎず、流行りの話題に乗っかっているだけです。「喉元過ぎれば、熱さを忘れる」のごとく、話題性が薄れて世論効果がなくなると、次のテーマを見つけて騒ぎ立てます。

そもそも、自民党は戦後日本の政治において、ほとんど政権を独占してきており、海外から「民主的な一党独裁」と揶揄されるほどです。自由選挙の結果であるにせよ、先進国では最長の安定政権(党による)を築き、本当に独裁体制に移行しようと思えば、冷戦期にチャンスはありました。

当時は「反共」を理由にすれば、アメリカも一応は容認せざるをえず、韓国のような独裁体制になったでしょう。機会があったにもかかわらず、自民党は極端な方向に走ることなく、今日まで民主主義体制を維持してきました。

自民党は巨大な統治機構であるがゆえ、急進的な方向転換はできず、党内に多様な意見を内包しながら、最終的には穏健路線を歩みます。

戦後の長い政治史をふまえると、「自民党で独裁、戦争になる」は無知の発露であって、あまりに現実離れした空想・妄想です。日本共産党が政権に入れば、「すぐに独裁共産国家になる」、というぐらい無理のある議論でしょう。

「スパイ防止法」の話も同じく、個人の権利との兼ね合いを吟味すべきとはいえ、建設的・現実的な意見で行わねばならず、「制定=民主主義終了」は飛躍理論でしかありません。

個人の自由との対立

むしろ、現状の防諜体制は穴が多く、安全保障と治安をリスクに晒しています。そして、それは巡り巡って個人に害を成す、あるいは市民生活に悪影響を与えるものです。

インテリジェンスに限らず、治安維持と個人の自由は天秤にかかり、どちらかを追い求める分、もう片方の範囲が狭まります。戦後日本にはスパイ防止法がなく、公安組織の権限は諸外国に比べると、制限状態だったと言わざるをえません。

そのおかげか、国民は戦前より広い自由を謳歌できたものの、一時は過激な左派勢力の台頭を招き、北朝鮮工作員の浸透と拉致を防止できず、結果的に社会不安と国民への実害を生みました。

インテリジェンスはCIA、旧KGBのイメージのせいか、「対外諜報」の印象が強いとはいえ、本来の国内も対象に情報活動をします。むろん、国家が自国民に対して情報収集する以上、そこには人権侵害の懸念が付きまとい、プライバシーや思想の自由とは対立構造です。

秩序と自由がトレードオフ関係にある限り、結局はどこまで国家権力を許すのか、どこで歯止めをかけるのか、という運用上の議論は避けられず、外国の諜報活動や過激派の台頭を防ぎながらも、法の濫用は阻止せねばなりません。

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