沿海域用の双胴船
アメリカは小型・マルチな「沿海域戦闘艦(LCS)」を作ったものの、これはコストに見合わない中途半端な性能になりました。
ただ、コンセプト自体は悪くなく、なかでも「インデペンデンス級」はそのステルス性と双胴デザインが目を引きます。そして、このステルス双胴船という設計にの裏には、「シーファイター(Sea Fighter)」という実験船の存在がありました。
- 基本性能:シーファイター(FSF-1)
排水量 | 1,100t |
全 長 | 79.9m |
全 幅 | 21.9m |
乗 員 | 26名 |
速 力 | 55ノット(時速102km) |
航続距離 | 8,100km |
兵 装 | なし |
建造費 | 不明 |
この船は2005年に建造された高速実験船であり、その速力は驚きの50ノット以上(時速90km)です。これはウォータージェット推進によるもので、高速でありながら、前後左右への細かい動きや急な回避運動も行えます。
さらに、高速機動に向けた軽量化を図るべく、その船体には多くのアルミ合金を使い、これもLCSの船体設計に受け継がれました。
設計面における海上試験はもちろん、LCSの特徴であるミッション・モジュールを運び、いろいろ試すのもシーファイターの役割です。これは任務に応じて換装するキットのようなもので、水陸両用戦、機雷戦、対潜水艦戦などのタイプがあります。
これらモジュールを運ぶべく、船内スペースは広く設計されており、小型ボートや無人潜水艇、軽車両の高速輸送にも転用できます。また、この格納スペースの上に飛行甲板を設けたところ、2機のヘリコプター・無人機を運用可能です。
ほかにも、当時の最新技術を使ったデジタル化を図り、約1,000トン級の高速船でありながら、艦橋で働くのは3名、航空運用はわずか1名となっています。
実験船としてはお役御免か
実験的要素を多く含むなか、LCSの量産とその失敗を受けて、シーファイター自体はその役割を終えたといえます。
しかし、退役はしておらず、アメリカ海軍内には沿岸部のパトロールから外洋任務までこなす高速哨戒艦として量産する案もあります。基本的には沿海域向けの船ですが、その外洋航行能力は問題なく、大西洋・太平洋での活動にも支障はありません。
そのため、改良型を量産したうえで、探知されにくい高速哨戒艦として敵を妨害・撹乱する構想があるようです。
とりわけ期待されているのが、50ノット超の速さを生かした魚雷やミサイルの回避能力です。その卓越した海上機動力を使えば、敵の攻撃をかわしながら、ミサイルを撃ち込み、後方にいる主力部隊のための道を切り開けるとされています。
ヘリも載せられる(出典:アメリカ海軍)
ただ、LCSやズムウォルト級駆逐艦などの失敗を受けて、アメリカ海軍も慎重にならざるを得ず、この構想を実現化するとは思えません。同じ役割を与えるならば、めざましい技術進歩を遂げている無人水上艇・無人潜水艇に注力した方が合理的だからです。
あえて量産するならば、高速ステルス輸送船に転用した方が役立つでしょう。
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