203mm砲向けの専用車両
以前、陸上自衛隊は「203mm自走砲」という巨砲を使い、北海道でにらみを利かせてきましたが、2024年に惜しまれながら退役しました。この203mm自走砲の配備は1984年に始まり、それに合わせて専用の弾薬運搬車が開発されました。
これは87式砲側弾薬車と呼び、203mm自走砲に随伴しながら、弾薬補給と操作要員の輸送を行うものの、相方の退役とともに同じく消えました。
- 基本性能:87式砲側弾薬車
重 量 | 23.5t |
全 長 | 7.17m |
全 幅 | 2.99m |
全 高 | 3m |
乗 員 | 2名 |
速 度 | 時速50km |
行動距離 | 約300km |
輸送能力 | 203mm弾×50発分 火砲操作員×8名 |
兵 装 | 12.7mm機関銃×1 |
そもそも、203mm自走砲は搭載兵器に比して車体が小さく、2発分の弾薬しか運べないうえ、13人の要員のうち5名しか乗れませんでした。そこで、日立製作所が専用の弾薬輸送車をつくり、戦場での随伴能力を確保すべく、203mm自走砲と同じエンジンを搭載しました。
重砲を運ぶ「73式けん引車」がベースになり、若干の変更点を除けば、基本設計が同じの派生型です。
車内には50発分の弾薬が収まり、クレーンで最大10発を揚げ降ろしながら、203mm砲に渡す仕組みです。ほかにも専用レールで供給できますが、この場合は自走砲の隣に停まり、そのまま継続的に移送します。
一方、73式けん引車がベースとはいえ、火砲を引っぱり運ぶ能力はなく、あくまで火砲の側で弾薬供給をする役です。
現代砲兵戦には不向き
ペアとして活動する関係から、203mm自走砲の91両に対して、87式砲側弾薬車も50両以上が配備されました。
ところが、現代砲兵戦では敵にすぐ見つかりやすく、同じ場所で連続射撃はできません。対砲兵レーダー、偵察ドローンの進化により、鈍重な火砲は時代遅れになってしまい、203mm自走砲も陳腐化を理由に引退しました。
その大火力は状況次第では役立つものの、活躍の場はかなり限られており、高機動な自走砲にはかないません。
そして、すぐに火砲の陣地変換を行うため、弾薬輸送車が側で供給するケースが減り、本来の役割を果たしづらくなりました。このような変化を受けて、87式砲側弾薬車もペアに合わせて退役しました。
装甲輸送車として使えた?
従来の役目を失ったとはいえ、装甲輸送車であるのは変わらず、ほかの用途でも使えたと思われます。たとえ砲側で活躍しなくとも、前線に弾薬や物資を届けたり、後方まで負傷者を運ぶのに役立つでしょう。
最低限の自衛火器と防護力を持ち、弾薬庫・兵員室の広さをふまえると、わりと貴重なキャタピラ式の装甲輸送車でした。
装甲輸送車は貴重(出典:陸上自衛隊)
いま現役の99式自走砲にも、99式弾薬給弾車という相方がいますが、こちらは予算不足から生産数が少なく、火砲数に対して全く足りていません。同じ場所で連続射撃はせずとも、後方に下がっての補給はせねばならず、そこまで届ける車両としても使えたはずです。
もちろん、老朽化にともなう部品不足、整備の難しさは否めません。ただ、全体的に装甲輸送車が足りず、73式装甲車でさえ使いつづけている以上、数十両の退役はもったいなかったような気がします。

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