米軍の空を飛ぶ「目」
現代の戦争において、最も重要な要素のひとつは「情報」であって、勝敗を決すると言っても差し支えありません。
特に空戦では敵がどこにいるか、何機の航空機が飛んでいるか、どの方向から来るのか——これら情報をいち早くつかみ、味方に共有できる側が極めて有利です。
この発見・識別・伝達を行うべく、各国空軍は「早期警戒機」を使い、空での優位性を目指してきました。なかでも、アメリカは早い段階からその重要性に気付き、民間の旅客機を改造しながら、空飛ぶレーダーとして運用しました。
その後、1977年にはボーイング707の機体に基づき、「E-3・セントリー」の開発に取り組み、本格的な指揮統制機能を持たせました。
- 基本性能:E-3「セントリー」
| 全 長 | 46.6m |
| 全 幅 | 44.4m1 |
| 全 高 | 12.6m |
| 乗 員 | 操縦4名+操作要員13〜19名 |
| 速 度 | 時速854km |
| 航続距離 | 約7,400km |
| 高 度 | 9,000m以上 |
| 探知距離 | 最大550km |
| 価 格 | 約7〜900億円 |
E-3は警戒監視の役割をふまえて、見張りを意味する「セントリー」の愛称を持ち、米空軍が現在も使う早期警戒管制機です。
早期警戒管制機は早期警戒機とは違って、管制機能と指揮統制能力が高く、より円滑に航空作戦を調整できます。そして、早期警戒管制機は別名、空中警戒管制システムと呼ぶことから、その英語名の略称にちなみ、「AWACS」とも呼ばれてきました。
E-3は代表的なAWACSのひとつであり、背中に巨大な円盤(レーダー)を乗せながら、高高度から戦域全体を見渡すため、地上と比べて水平線の影響を受けません。地上レーダーは水平線の影響を受けてしまい、遠方の低い高度は探知しづらいものの、AWACSのように空高くから監視すれば、低高度の目標でも発見できるわけです。
E-3セントリー(出典:アメリカ空軍)
そんなE-3の円盤は直径9mにおよび、「AN/APY-1/2レーダー」が格納されています。飛行中は1分間で6回転するとともに、ものすごく強力なレーダー波を放ち、通常の飛行高度であれば、最大400〜550km先まで探知可能です。なお、レーダー波は人体に害を与えるほど強く、地上にいるときは稼働が許可されません。
この強力なレーダーに加えて、E-3は電子戦に対抗する装置を持ち、敵の電波妨害を受けても、その探知能力を維持してきました。
実戦で航空優勢をもたらす
E-3の機内は通常の旅客機とは異なり、客席の代わりに多数の電子機器が並び、管制員やレーダー要員、通信員、分析官が配置されます。ディスプレイには敵味方の情報が映り、管制員はこの識別情報に基づいて、味方に迎撃の指示を出す仕組みです。
実際の軍事作戦となれば、複数のAWACSに担当空域を割りふり、それぞれの空域で全航空機を常時把握させます。まさに各空域で「目」をつかさどり、味方・敵・民間機を識別したあと、優先目標を司令部と味方部隊に伝えます。
ここまではAWACSでなくとも、早期警戒機でも一応できますが、味方の戦闘機を的確に誘導、指揮・統制する場合はAWACSの出番です。
戦闘機は「戦闘能力」が高い分、レーダーの捜索範囲は限られており、多くの死角が存在します。他方、AWACSは戦闘能力がない代わり、その探知能力はスバ抜けて高く、戦闘機の「目」として働けば、両者は互いの弱点を補完できます。
E-3(出典:アメリカ空軍)
お互いの強みを活かしたところ、湾岸戦争(1991年)では圧倒的な航空優勢を築き、E-3はその大きな勝因になりました。
多数のE-3が計379回の出撃を行い、イラク空軍を完全にマークするとともに、味方の戦闘機を正確に誘導しています。それは空戦での41個の戦果のうち、38個の撃墜にE-3が関与したほどです。
その後もコソボ紛争、イラク戦争、アフガン戦争で飛び、アメリカとNATO軍に優位性をもたらしました。
老朽化で稼働数が減少
そんなE-3は湾岸戦争の翌年に生産が終わり、その累計生産数は68機にのぼります。
30機以上は米空軍に配備されるも、イギリス、フランス、サウジアラビア、チリ、NATO軍も買い込み、特にNATOは18機を導入した結果、米軍との相互運用能力が飛躍しました。
すでに配備から半世紀が経つとはいえ、E-3はソフトウエアのアップデート、新型レーダーへの換装、指揮管制システムの強化を通して、一部は対地・対水上の探知モードが加わり、小型艦艇に対する監視能力を獲得しています。
2035年には退役(出典:アメリカ空軍)
ただ、そろそろ改良の限界が見えるなか、米空軍の稼働数は16機まで減ったほか、2026年の対イラン戦争で1機が破壊、もう1機が損傷しました。したがって、E-3は2035年の退役が決まり、後継には「E-7A・ウェッジテール」を導入予定です。
E-7Aは高性能なAESAレーダーを持ち、探知・処理能力が向上したものの、コスト面でトランプ政権の不満が高まり、一時は導入中止になりかけました。2機の先行導入は許可されるも、トランプ政権ではゴールデン・ドーム計画との連携、「E-2D」の改良型を望む声が根強く、順調に配備が進むかは分かりません。
いずれにせよ、イージス艦が海上での情報ハブであるように、E-3は空中での情報ハブとして働き、現代航空戦で「情報の優位」を体現した存在でした。戦闘機のような派手さはなくとも、E-3なしでは近年の航空戦は成立せず、その業績は空軍の勝利史に刻まれています。


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