安全保障面で急接近
日本の周辺国のうち、フィリピンは中国や韓国と比べてあまり話題になりませんが、近年は安全保障面での関係を強めている重要国です。
過去を乗り越えて友好関係を築いてきたなか、対中国で似た苦悩を抱える日比両国の距離は急速に縮まっています。これまでは経済面での結びつきが強く、軍事協力は人道支援などに限られていましたが、最近は装備品供与や共同訓練などのレベルまで格上げされました。
しかも、これらはフィリピン側からの働きかけが強く、自衛隊によるフィリピンへの展開さえも視野に入れています。すでに海上自衛隊のP-3C哨戒機や航空自衛隊のF-15J戦闘機が訓練目的で一時派遣されており、共同訓練時の手続きなどを簡略化する円滑化協定も協議中です。
この円滑化協定はオーストラリアとイギリスに続くもので、フィリピンとの「準同盟化」を意味します。フィリピンにおける対日感情は、旧日本軍の戦争犯罪のせいで戦後しばらくは悪かったものの、経済・文化交流を通した努力と対中国警戒の高まりによって、いまや準同盟国になれるまで改善しました。
すなわち、両国は過去を乗り越えたのみならず、現在進行形の脅威を見据えて次のステップをふみ出した形です。
両国にとってはWin-Win
では、日比両国の準同盟化は何を意味するのか?
まず、軍事力で劣るフィリピンにとっては装備の近代化、自国軍の能力向上を期待できます。これは日本による巡視船の供与や日本産レーダーの輸入にも表れていて、ここに自衛隊の一時展開が加われば、南シナ海で動きを強める中国に対するけん制になります。
また、フィリピンの同盟国であるアメリカは、かつて撤退した米軍を再び展開させている最中なので、日本の軍事的関与はこれを補完するものです。ジプチのように自衛隊が事実上駐留する可能性は低いものの、訓練名目での定期派遣は常態化すると思われます。
一方、日本側としてはシーレーン保護と台湾有事を考えたとき、南シナ海に面して台湾のすぐ南にいるフィリピンは戦略的に極めて重要です。現在、日米両国は西太平洋での対中国防衛を進めていますが、沖縄〜台湾〜フィリピンのラインはまさにその最前線になります。
この防衛ラインを巡る攻防が行われるわけですが、これは皮肉にも太平洋戦争で日本がアメリカに対して試みたものを今度は中国側に逆用したものです。
いずれにせよ、日比両国の動きは対中国では「Win-Win」といえるもので、共通の同盟国・アメリカも巻き込んだ外交・安全保障戦略の一環です。
中国の戦略的ミス
こうした日比両国の急接近は、当然ながら中国にいら立ちを覚えさせるものです。
しかし、これは南シナ海への進出を強引に進めたり、フィリピン側に圧力をかけてきた中国側のオウンゴールの結果にほかなりません。
おそらく中国側はフィリピンの抗戦意志とともに、同国の対日感情を見誤っていたのではないでしょうか。過去を巡る問題があっても、普通は目前にせまる脅威への対処を優先します。
これは北朝鮮を前にして関係改善を進める日韓両国の例を見ても明らかですが、中国は「歴史カード」が持つ効果を過信していたとしか思えません。
その結果、過去の日本よりも現在の中国を警戒する国々との間に認識のズレが生じて、むしろ中国側に不利な状況を作り出しました。
「昨日の友は今日の敵」という言葉があるように、国際関係においては「昨日の敵は今日の友」というのも事実なのです。単純明快な理論ですが、以前から歴史カードに頼ってきた中国は、その効果が年々薄れているにもかかわらず、未だにそれにとらわれています。
こうした中国側の期待や認識はあまりに都合がよく、それをしり目に日比両国は今後も準同盟関係を強化していくでしょう。
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