さらなる軍事支援に向けて
さて、ここまでは東部戦線の緩和、交換用の捕虜獲得、プーチン政権の権威失墜について書きました。
これらを狙いながらも、別の大きな目的が2つあると考えます。
まずは、欧米からさらなる軍事支援を引き出すこと。具体的にいえば、長距離ミサイルなどの兵器をもらい、これらを制限なく使えるようにすることです。
これまでの支援は小出しだったり、ロシア領への攻撃は許可しないなど、いろんな制約に悩まされてきました。これはロシアによる核の脅しが効き、欧米側がエスカレーションを恐れたからです。
ところが、ロシア本国への軍事侵攻という、明らかな「レッドライン」を超えたにもかかわらず、ロシア側の反応は想像よりも弱いレベルでした。
ウクライナはロシアの脅しは強がりでしかなく、長距離兵器・高性能兵器でロシア領を叩いても、何ら問題ないと証明したかったのでしょう。
一か八かの作戦が功を奏したのか、2024年11月にはロシア領への長距離攻撃が可能になり、さっそくATACMSやストーム・シャドウなどのミサイルが撃ち込まれました。
対するロシアはICBM級のミサイルを撃つなど、その威嚇レベルを引き上げましたが、すでにハッタリであることが見透かされています。
ウクライナは新しい兵器が届くと、それを効果的に用いながら、自らの運用能力を示してきました。今回の逆侵攻作戦でも、西側から供与された戦車や自走砲、歩兵戦闘車、ロケット砲などを使い、ロシア領内への快進撃を果たしました。
前述のとおり、それは前回の失敗を生かしたものでしたが、必要な武器を渡して、制限なく使えるようにすれば、この戦争は十分に勝てると伝えたかったわけです。
交渉に向けた交換材料
次に考えられるのは、将来的な停戦交渉、もしくは和平交渉に向けた交換材料の確保です。なかでも、第2次トランプ政権の誕生を想定した動きともいえるでしょう。
バイデン政権とは違い、トランプ前大統領はウクライナ支援に消極的のほか、当選後はすぐさま停戦・和平交渉を行うと豪語しました。
おそらく、これは現状での停戦を意味するため、ウクライナは東部・南部を占領されたままになり、ロシア有利の状況をもたらします。もちろん、プーチン側からすれば、この停戦案はまさに「渡りに船」であって、いまの苦境から脱出する好機です。
ところが、ロシア本国の一部がウクライナに占領されている場合、こうした停戦案はプーチン政権には飲めません。ロシアの強い守護者を演じてきた以上、たとえ少しの領土であっても、敵に占領された状態は容認できないのです。
加えて、ウクライナ軍が占領した土地には、スジャという天然ガスのパイプラインが通る町が含まれています。ここは欧州向けの輸出ガスの約50%が通り、メーターやバルブなどの重要施設もあります(そこまで影響を与えるかは微妙だが)。
上手くいけば、ウクライナは交換という形で、失った領土の一部は取り戻せるかもしれません。全土回復には及ばずとも、何も返ってこないよりはマシです。
すでにウクライナは制圧地域を確保すべく、塹壕を掘ったり、数少ない橋を落として防衛線を作っています。これ以上は積極的に侵攻せず、守りを固める方針にシフトしているわけです。
それは自軍の能力を超える、または必要以上のロシア領は獲らず、交渉材料としての分だけ確保しているようにみえます。
コメント