ウクライナ支援の重要性
岸田文雄政権は2021年から2024年まで続き、戦後8番目の長さとなりました。
その評判はあまり良くはなく、増税批判や自民党の裏金問題なども加わり、後半は支持率低迷に悩みました。
ところが、国外に目を移せば、その外交政策を巡る評価は意外に高く、とりわけ欧米諸国や韓国からは信頼されていました。
その大きな理由として、ロシアによるウクライナ侵攻に際して、すぐさまウクライナ側に立ったことがあります。
欧米の問題から世界の問題へ
侵略される国を支援する。これは一見すると当たり前ながらも、じつは現代の国際社会においても難しく、ロシアの肩を持つ中国や北朝鮮は言わずもがな、関係の深いインド、アフリカ諸国の煮えきらない態度はそれを物語っています。
そんななか、日本はロシア軍の侵攻開始後、すぐにウクライナ支持の姿勢を表明したほか、非難決議や独自制裁、ウクライナへの人道支援などを実施しました。
これらはG7、自由主義陣営の一員としては当然でしょう。
しかし、日本が直ちにロシア非難、ウクライナ支援に加わった結果、ウクライナ侵攻が欧米の問題ではなく、アジア太平洋にも関わる世界的な問題になりました。
衰退気味とはいえ、日本は世界3位の経済力を持ち、長年の外交で築き上げてきたその影響力は決して小さくはありません。
そんな日本がロシアを恐れたり、旗幟を鮮明にしてなかったら、G7の結束にはヒビが入り、ヨーロッパ・NATOの問題として矮小化されていたかもしれません。
日本はもはやアジアのリーダーではありませんが、それでも自由主義陣営側に立ち、先陣を切って支持表明したところ、日和見していた一部の国がつづきました。
ヨーロッパへのLNG支援
こうした姿勢に加えて、あまり知られていないのがヨーロッパへのLNG支援です。
ヨーロッパ勢がウクライナを巡ってロシアと対立するなか、同時にロシア産の天然ガスに大きく依存していました。もし、ロシアからのガスが止まれば、寒い冬を越せるかどうか分からず、欧州諸国にとっては死活的問題です。
そこで、中東から日本に向かう天然ガスのうち、一部をヨーロッパ方面に回して融通しました。それは数十万トン規模でしたが、実際に届けられた量よりも、危機に手を差し伸べた点が高く評価されました。
こうした姿勢は向こうの首脳部にはかなり好印象を与えたらしく、その後は国際会議や首脳会談の度に感謝されたそうです。
むろん、外交である以上、このできごとには別の意図もあります。
それはヨーロッパ勢に「貸し」を作り、こちらの有事で同じく助けてもらうためです。
もし日本が戦争に巻き込まれたら、国際社会の支援や助けが必要となり、そのときは一定の影響力を持つヨーロッパの力が欠かせません。そのとき、助けてくれる保証はないとはいえ、あらかじめ協力関係を結び、貸しを作っておくのは「保険」としては悪くありません。
すなわち、先述のウクライナ支持、対ロシア非難と合わせて、将来のことも考えて、欧米諸国に恩を売ったわけです。
「正しい側」につく歴史的意義
このようなしたたかさは、岸田首相のウクライナ訪問にもみられました。
2023年3月に首都キーウを電撃訪問したとき、同じ日に中国の習近平主席がロシアを訪問しました。
これは中露会談の話題性を削り、中国側のメンツをつぶすとともに、「侵略と戦う側vs侵略する側」「自由主義vs権威主義」という構図を表現しました。
その結果、日本は侵略を受ける民主主義国家の側に立ち、中国は侵略国家の側についたとの印象を世界に与えました。G7首脳陣でいちばん最後に訪問したにもかかわらず、その遅れを挽回するすさまじい成果を手に入れたのです。
その宣伝効果はすさまじく、歴史的意義についていえば、ヒトラーと握手した80年前と異なり、今回は「正しい側」についたとのイメージを拡散できます。
過去の侵略戦争が尾を引き、なにかと不利な立場にさらされるなか、日本が被害者側、中国が加害者と握手する姿を対比させることで、日中両国の道義的立場を逆転させました。
こうしてみると、岸田政権は国内をかえりみず、無条件に外国を支援すると批判されがちですが、意外にも「狡猾」な外交をやっていたのです。
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