果たして海上自衛隊は日本のシーレーンを守れるか?

商船を護衛する海上自衛隊 自衛隊
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全体を守るには戦力不足

一方、日本のシーレーンは近海にとどまらず、欧州や中東方面まで伸びています。そんな遠方まで守るとなれば、現有戦力では不可能です。

海自そのものは組織規模として大きく、その艦隊規模や船の稼働数はイギリス海軍さえを上回ります。アメリカ海軍と比べれば、海自の戦力も小さく見えますが、護衛艦54隻・潜水艦22隻体制は世界的には珍しい充実ぶりです。

しかしながら、海自が日本周辺を活動範囲にしており、その実態は外洋海軍ではなく、あくまで地域海軍になります。近年はインド洋・アフリカ沖まで進出したり、限定的な戦力投射能力(「いずも型」軽空母)を獲得したため、実際には「地域海軍+α」になりつつありますが。

いずれにせよ、地域海軍の海自にとって、遠隔地を含むシーレーン全域を守るのは荷が重く、残念ながら戦力が足りません。

たとえば、1952年に海軍再建を検討したとき、旧海軍関係者らが必要戦力の見積もりを行い、いくつかの案を提示しました。このうち、シーレーンを全て守りながら、日本防衛も担うとした場合、以下の戦力整備が必要と結論づけられました。

護衛空母 4隻
巡洋艦 8隻
駆逐艦 13隻
海防艦 150隻
駆潜艇 60隻
局地防備艇 60隻
潜水艦 8隻
掃海艇 24隻
輸送艦 14隻

上記のうち、海防艦は対潜・対空警戒をしながらの船舶護衛、駆潜艇は近海での対潜哨戒、局地防備艇は沿岸警備を行うものです。

これら3つの船舶の多さ、太平洋戦争のトラウマがまだ新しかった点をふまえると、当初案からは潜水艦に対するヘイトとともに、今度は絶対シーレーンを守るという強い意志が伝わってきます。そして、独力で全てを守る場合、これだけの戦力が必要という裏返しです。

こうした試算は1950年代に限らず、1971年の調査会でも似た結論が出されています。いわく、外洋シーレーンを守るだけで80隻の護衛艦が欠かせず、日本近海の防衛には別途40〜50隻の警備艦艇がいるとのことでした。

それは現有戦力の3倍以上に等しく、あまりに不可能な数字であったことから、現実では「近海防衛+周辺のシーレーン防衛」の規模になりました。

同盟ネットワークの重要性

結局のところ、独力でシーレーン全体を守るのは厳しく、同盟国や友好国の協力が欠かせません。

シーレーン防衛といえば、海自はソマリア海賊に対処すべく、アフリカ沖まで護衛艦とP-3C哨戒機を派遣しており、2009年から商船を護衛してきました。護衛艦2隻で商船隊の前後をガードしながら、約900kmにわたって船団護衛を務めています。

さらに、多国籍部隊の護衛艦隊に加わり、他国海軍と密に連携しながら、平時におけるシーレーン保護を行ってきました。

このような経験は戦時の海上護衛戦にも役立ち、他国との協調実績はそれに向けた布石といえます。

前述のとおり、日本単体では戦力が足りず、有事では遠方地域に多くの護衛艦は割けません。

近海のシーレーンは守るとはいえ、南シナ海より先は直接的に護衛するのが難しく、インド洋までは手が回らないでしょう。敵が活動範囲を制限しない限り、シーレーンを守るには同盟国の協力が必要不可欠です。

商船を護衛する海上自衛隊ソマリア沖での海自護衛艦(出典:海上自衛隊)

太平洋戦争時とは違い、いまの日本は同盟ネットワークに頼れる利点を持ち、その中には世界最強のアメリカ海軍が含まれています。前回のような孤軍奮闘では負けますが、強力な同盟国・友好国と力を合わせれば、海上護衛戦は十分に勝てるでしょう。

これは同じ島国でありながら、二度の世界大戦で海上交通路を守り抜き、最終的に勝利したイギリスが証明しています。食料自給率が40%にもかかわらず、海上護衛戦でアメリカの助けを借りながら、大西洋におけるドイツ潜水艦の脅威を排除しました。

いまの日本はアメリカと同盟関係にあるほか、オーストラリアやイギリスとも準同盟関係にあります。言い方は悪いですが、西側諸国は非同盟国のウクライナにでさえ、あれだけの支援をしてきました。

これが世界3位の経済力を持ち、アジアで自由主義陣営の一翼を担い、アメリカと正式な同盟関係にある日本ならば、なおさら支援するでしょう。

特にオーストラリアは南シナ海に近く、航行の自由を強く支持するなど、シーレーン防衛の一部を託せる有志国です。イギリスもアジア太平洋に戻り、貴重な空母打撃群を派遣するなど、同地域への関与を強めてきました。

その裏にはいろんな利害があれども、彼らが「海洋の自由」という共通目的・理念を掲げる以上、日本のシーレーン防衛にはプラスに働き、独力での負担軽減につながります。

つまるところ、アメリカとの軍事同盟、他の友好国の協力さえあれば、日本のシーレーン防衛は成り立ち、太平洋戦争の二の舞にはなりません。

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