戦車不要論はウソ?現代戦における主力戦車の重要性・役割

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機動打撃力・突破力の強み

さらに、戦車の突破力(機動打撃力)はバカにできず、いまも通用する強みです。

アメリカのように空を支配できるならばともかく、お互いに航空優勢が獲れず、戦線が停滞していれば、戦車の機動打撃力が重要になります。

これはロシア=ウクライナ戦争で再証明されており、ウクライナが2022年秋に反撃に出たとき、機甲部隊でロシアの防衛線を食い破りました。2024年夏の逆侵攻作戦でも、やはり機甲戦力でロシア領になだれ込み、敵陣の弱い部分を打通しました。

一連の作戦は成功を収めるとともに、改めて防衛線突破には機甲戦力が欠かせず、機動打撃力の中核は戦車であると示しました。一方、戦車抜きでは敵陣突破は厳しく、人的損害をいたずらに増やすだけです。

つまり、条件さえ整えば、戦車の突破力は恐ろしい効果を生み、戦局を変えられる潜在力があります。

ウクライナの戦車機動打通作戦には不可欠(出典:ウクライナ軍)

逆に戦車不要論の成立条件を考えると、対戦車戦から機動打撃まで行い、戦車の果たしてきた役割を担う、置き換えられる新兵器が必要です。戦車は騎兵の立場を奪い、新たな突撃力に成り代わりましたが、その後継者は見当たりません。

戦車というのは化け物に近く、真正面から敵の火力を受け止めて、時速50〜60kmで不整地を走りながら、わりと正確に120mm弾を撃ち込んできます。加えて、最新型は高性能センサーを持ち、遠距離目標をすばやく察知するなど、優れた状況認識能力を誇ります。

これを総合的に超えるのは難しく、ある部分では戦車より優れていても、完全代替とまではいきません。

結局のところ、「とって代わる兵器はあるか?」という問いに対して、現実的な答えを出せない限り、戦車不要論にはおのずと限界があります。

日本でもやはり必要

さて、日本は島国という地理的特性からか、戦車はそこまで重要ではない印象が強く、定期的に戦車不要論が出てきました。これは陸自の戦車部隊をなくす、あるいは大幅に減らして、その分の人員と予算を海上・航空戦力にふり向けるものです。

日本は海に囲まれている以上、大規模な地上戦は起きづらく、他国と比べて戦車の重要性は低いです。しかし、これは相対的な評価にすぎず、離島防衛や着上陸侵攻の可能性を考えると、決して「いらない兵器」ではありません。

前述のとおり、敵が戦車を持ってきたら、最も役立つ対処手段が戦車だからです。

逆に日本が戦車を保有している限り、相手も戦車を揚陸せねばならず、その分だけ侵攻のハードルが上がり、輸送・補給能力の負荷が増えます。陸自には約300両の戦車がありますが、これさえもなくしたら、より少ない戦力での本土侵攻を許すだけです。

むろん、島国・日本は海・空の戦力を重視して、洋上での撃破を優先すべきですが、敵の上陸を完全阻止するのは難しく、予期しない場所への奇襲上陸もありえます。

その場合、戦車なしでも防衛自体はできるものの、人的損害と失地面積を抑えながら、すばやく敵を追い出すならば、機甲戦力を差し向けるしかありません。

日本は南北に縦長く、国土の2/3が山地という関係から、狭い要衝や平野部に防衛線を築かれると、かなり厄介な状況を生み出します。こうした正面陣地を突破して、早急な国土奪還を目指すうえで、戦車の機動打撃力は不可欠です。

朝鮮半島と日本の地形図日本と朝鮮半島の地形

再び歴史に学ぶと、朝鮮戦争初期では韓国に戦車がなく、北朝鮮の戦車部隊に対抗できないまま、あっという間に国土の大半を失いました。ちなみに、朝鮮半島は山岳地帯が多く、平地が少ない点では日本と変わらず、その韓国が戦車を重視しているのは特筆すべきです。

あのアメリカでさえ、圧倒的な航空戦力を誇るにもかかわらず、約4,600両の戦車を運用しており、湾岸戦争では大規模な戦車戦を経験しました。そして、2000年代の対テロ戦争を挟んで、露宇戦争を目の当たりにした結果、戦車をなくすどころか、新型戦車の開発を進めています。

これはアメリカに限らず、世界各国も同様であって、欧州勢は続々と次世代戦車の開発を表明しました。すなわち、露宇戦争の教訓を受けてもなお、世界は戦車廃止には向かわず、むしろ後継の開発に取り組んでいます。

一方、陸自は10式戦車の後継を思案しながら、現行戦車は北海道と九州に集中配備しています。本州・四国には16式機動戦闘車があるとはいえ、これは「動ける火砲」との位置付けである以上、戦車の代わりにはなりえません。

そもそも、九州と北海道は仮想敵国に近く、おそらく最初に侵攻される土地です。

本州・四国に比べて侵略されやすいなか、そこの戦車部隊を存続させたこと自体、戦車不要論に対する反証といえるでしょう。相対的に危険度が高いからこそ、その地域の戦車はなくさず、抑止力と反撃戦力として重視している証です。

当然ですが、自爆ドローン対策を行うなど、最新の脅威に向けたアップデートは欠かせず、従来のままでは運用できません。

その役割と活躍の幅は減りつつも、戦車に代わり得る存在がなく、強みやメリットが弱点を上回る限り、戦場から姿を消すことはないでしょう。

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