長距離化する現代空戦
空での戦いといえば、トップガンのように相手を視認しながら、その背後に回り込み、ミサイルを撃ち込むイメージでしょう。
しかし、レーダーの性能向上、対空ミサイルの長射程化にともない、このようなドッグファイト(有視界戦闘)ではなく、遠距離から対空ミサイルを放ち、そのまま逃げられるようになりました。
戦闘機自身は約50km以上の探知は難しく、早期警戒機などの協力が必要とはいえ、円滑な情報連携を実現できれば、長距離ミサイルで相手を撃墜できます。
たとえば、2025年にはインド・パキスタンで紛争が起こり、両軍が空戦を行ったところ、パキスタンは中国の「PL-15E」というミサイルを使い、160km先のインド軍機を撃墜しました。
PL-15はミサイル自身がレーダーを持ち、射程200kmを誇る超長距離兵器ですが、その能力は空軍関係者に衝撃を与えました。
ここまで遠距離から狙い、撃墜できた事例は世界初のうえ、PL-15が決して「最新兵器」ではないからです。すでに配備開始から10年が経ち、より高性能な「PL-21」が登場しているため、中国は予想以上の能力があると判明しました。
最低でも射程240km以上
一方、世界最強のアメリカも負けておらず、「AIM-174B」という新型ミサイルをつくり、海軍の戦闘機で運用しています。
- 基本性能:AIM-174B対空ミサイル
重 量 | 860kg |
全 長 | 4.7m |
直 径 | 0.34m |
弾 頭 | 64kg |
射 程 | 240km以上 |
速 度 | マッハ3.5以上(時速4,287km) |
価 格 | 約6億円 |
こちらは水上艦艇が使う「SM-6」に基づき、戦闘機用に改修したミサイルであって、その射程は240km以上とされてきました。この240kmは公表値にすぎず、ベースのSM-6が射程370kmである点を考えると、実際は300〜400km近いと思われます。
その愛称は「ガンスリンガー(Gunslinger)」ですが、これは銃を使う凄腕の殺し屋を指しており、一方的に狙い撃ちする意味が込められました。発射後は途中まで誘導を行い、最後はミサイル自身で捜索・捕捉しながら、大型爆撃機でさえ一撃でたたき落とせます。
AIM-174Bを搭載した戦闘機(出典:米海軍)
その代わり、現行のAIM-120(中距離ミサイル)の5倍は重く、1発あたりの値段も6億円以上と超高額です。したがって、通常の対空ミサイルと同じようには使わず、遠方の早期警戒管制機や空中給油機、対艦ミサイルを装備した爆撃機など、あくまで高価値目標を狙います。
特に中国はアメリカの空母を沈めるべく、爆撃機に長距離対艦ミサイルを積み、遠距離攻撃を仕掛けてくるでしょう。その対抗手段としてAIM-174Bは有効であり、長距離防空の要として期待されています。
また、先述の中国製「PL-15E」の戦果を受けてか、アメリカは2025年5月の岩国基地祭において、AIM-174Bの訓練弾を一般公開しました。
そこに訓練弾があれば、実弾も当然あることから、在日米海軍には配備済みというわけです。少なくとも、そのようなメッセージを送り、中国側をけん制したに違いありません。
台湾有事で日本が前線基地・戦域になる以上、AIM-174Bを優先的に送り込み、F/A-18戦闘機で運用するはずです。

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