なぜ必要?タイの空母「チャクリ・ナルエベト」の役割・性能

タイの空母「チャクリ・ナルエベト」 水上艦艇
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タイガ誇る軽空母

航空母艦(空母)と聞けば、いわゆる列強や海軍国が使う印象が強く、それなりの経済力が欠かせません。しかし、空母保有国は大国にとどまらず、意外なケースをあげると、東南アジアのタイもそのひとつです。

この空母は「チャクリ・ナルエベト」と呼び、タイ王室の名前を由来にしながら、日本語では「チャクリ王朝に敬意を評して」の意味になります。

  • 基本性能:空母「チャクリ・ナルエベト」
排水量 10,000t(基準)
全 長 182.65m
全 幅 30.5m
乗 員 455名+航空要員146名
速 力 26ノット(時速48km)
兵 装 20mm機銃×2
12.7mm機銃×2
6連装防空ミサイル×3
艦載機 ハリア攻撃機×6
哨戒ヘリ×6
輸送能力 軍用車両×30
陸戦兵士675人
建造費 約520億円

第二次世界大戦後のタイの歴史をふり返ると、近隣のベトナムが主な仮想敵国にあたり、国内では共産主義勢力に対処してきました。こうした事情で陸軍重視になるなか、タイ海軍は長らく優先順位が低く、十分な予算をもらえていません。

ところが、共産主義の脅威が落ち着き、ベトナム戦争が終結すると、今後は自国周辺の海洋権益を守るべく、海軍の整備に目を向けました。

1980年代には経済成長の後押し、南シナ海での紛争の激化を受けて、タイ初の空母計画が浮かび、1991年にスペインに建造を依頼しました。

スペインの「プリンシペ・デ・アストゥリアス」を原型にしながら、1997年にはタイ初の空母として仕上がり、ジェット機の運用という点でいえば、アジア初の快挙です(旧日本海軍はレシプロ機のみ)。

当初は固定翼機の運用を考えず、哨戒用のヘリ空母として計画するも、最終的に垂直離着陸機を使い、事実上の「軽空母」になりました。

米空母のようなカタパルトはないものの、艦首部分にスキージャンプ台を置き、短距離離陸に対応しています。艦載機にはハリアー攻撃機を選び、スペインから中古の余剰機を安く買ったあと、哨戒ヘリと組み合わせました。

基本編成は「ハリアー×6、哨戒ヘリ×6」とはいえ、空母全体の収容能力をふまえると、ハリアー10機とヘリ15機を搭載できるほか、甲板には大型のCH-47輸送ヘリを駐機可能です。

また、輸送・補給艦の一面を持ち、多くの食料・物資を運べるうえ、90トン/日の造水能力を備えました。艦橋前には揚陸クレーンを設置しており、航空機用の格納庫を転用すれば、30両以上の装甲車・軍用車両が収まり、最大675人の兵士が乗艦できます。

財政難で稼働できず

一方、タイ唯一の空母にもかかわらず、その人生は描いていたものとは違い、ほとんど苦難の連続でした。就役直前にアジア通貨危機が起こり、海軍の予算は大きく落ち込み、装備品の多くを見送ります。

一例をあげると、兵装面ではシースパロー対空ミサイルを買えず、ファランクス(CIWS)と射撃管制装置も断念しました。2001年に別の防空ミサイルを装備するも、就役当時は12.7mm〜20mm機銃しかなく、限定的な能力に抑えられました。

タイの空母「チャクリ・ナルエベト」「チャクリ・ナルエベト」(出典:タイ海軍)

その後も予算不足は変わらず、災害発生時は出動してきたとはいえ、その稼働率は空母界隈では最低レベルです。普段は月1回ぐらいしか海に出ず、人生の大半を母港で過ごしてきました。

それゆえ、ほぼ観光客向けの「記念艦」と化しており、母港での停泊と艦内見学が常態化しています。

停泊中はまともな訓練ができず、乗組員は維持・整備で忙しい分、空母要員としての練度は足りません。航空機の運用能力はもちろん、航海の技量すら怪しいレベルです。

しかも、艦載機のハリアーは老朽化が進み、2006年に全て退役しました。

後継候補にはF-35B戦闘機があるものの、既存のエレベーターでは大きさが足りず、全面的な改装工事が避けられません。そんな大規模改装のお金はなく、現在は哨戒・輸送ヘリだけを積み、初期構想のヘリ空母に戻ってしまいました。

象徴は簡単に手放せない

一応、タイ海軍は固定翼機を諦めておらず、新たに無人機の試験運用に取り組み、どうやら別の道を模索しているようです。無人攻撃機であれば、通常の固定翼機よりは安く済み、同時に警戒監視能力を強化できます。

最近は無人機の進化にともなって、強襲揚陸艦で無人攻撃機を運用するなど、「ドローン空母」を目指す動きを見て、タイ海軍も似たことを試みている形です。

たとえば、トルコが誇る「バイラクタルTB2」でも使えば、ハリアーほどではないにせよ、一定の攻撃能力を確保できるでしょう。

ただ、当の海軍は複雑な心境を抱き、金食い虫の空母は動かしても、そのまま母港に留めておいても、結局は莫大な維持費が欠かせません。進んでも金を失い、退いても金を失うわけです。

さらに、唯一の空母にして海軍の象徴である以上、「チャクリ・ナルエベト」はそう簡単には手放せず、国内政治でも役目を果たしてきました。

定期的なクーデターで分かるとおり、タイの国内政治は軍部に左右されやすく、陸軍は大きな影響力を持っています。逆に海軍は伝統的に立場が弱く、象徴の「チャクリ・ナルエベト」まで失えば、自身の弱体化と陸軍の伸張を許すだけです。

空母のような巨艦は目立ち、予算獲得につながる理由になるほか、国威発揚にはピッタリといえます。特に権威を重視する社会において、象徴といえども存在意義は大きく、その艦名が王室由来ならばなおさらでしょう。日本で例えると、戦艦大和のような感じでしょうか。

なお、低い稼働率さえ乗り越えれば、周辺国に対する「けん制」には役立ち、南シナ海では米中の空母を除くと、唯一の空母(軽空母)という地位にあります。

同じASEANに属しながら、加盟国全員が仲良いわけではなく、南シナ海を巡る紛争、さまざまな外交問題とは無縁ではありません。こうした諸問題を抱えるなか、空母があるだけで対外圧力を生み、外交の後ろ盾ぐらいにはなれます。

ほとんど記念艦に近いとはいえ、タイ海軍の象徴なのは変わらず、ASEAN唯一の空母でもあるため、このまま現状維持が続きそうです。

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