イランの徘徊型弾薬
ロシアのウクライナ侵攻において、両軍の自爆ドローンが飛び交うなか、ロシアは「シャヘド・シリーズ」を多用してきました。
これはイラン製の自爆ドローンですが、連日のように都市部を空爆するなど、ロシアの巡航ミサイルとともに、防空上の大きな脅威になっています。
- 基本性能:シャヘド136
| 重 量 | 200kg |
| 全 長 | 3.5m |
| 全 幅 | 2.5m |
| 速 度 | 時速185〜200km |
| 航続距離 | 2,000〜2,500km |
| 高 度 | 最大4,000m |
| 弾 頭 | 爆薬40〜50kg |
| 価 格 | 約700万円 |
まず、シャヘドは「徘徊型弾薬」にあたり、プロペラ音を響かせて低空を飛び、そのまま目標に突っ込む自爆兵器です。俗に「カミカゼドローン」とも呼び、自身の慣性航法とともに、GPS機能を使って自律飛行できます。
同じ自爆ドローンといえども、シャヘドは複数の種類があって、乗用車ほどの大きさのシャヘド136、ジェット・エンジンで飛ぶシャヘド238、小型のシャヘド131などが存在します。
ここでは主に「シャヘド136」を解説します。
小型飛行機のような外観を持ち、三角形の主翼はスマートな印象を与えるも、機首には最大50kgの爆薬を搭載しており、その威力は主力戦車さえ撃破できるほど。
機体は簡易的な発射ラックに収まり、トラックで発射地点まで運んだあと、一度に大量射出できます。小型の簡易エンジンで進むため、最大時速は約200kmと遅いものの、その代わり航続距離は2,500km以上と長く、海を越えての遠距離攻撃が可能です。
発射用のラック
遠くまで飛べるとは言え、シャヘドは遅い飛行速度に加えて、高度も最大4,000mにとどまるため、そこまで撃墜は難しくありません。
ミサイルや対空機銃はもちろん、歩兵が小銃で撃墜した例もあって、夜間もサーチライトで照らしながら、主に対空砲火で迎撃しています。また、最近はプロペラ機やヘリで近づき、そのまま乗員が小火器で撃墜するなど、まるで昔の戦場に戻ったような光景です。
他方、シャヘド136は通常飛行時はともかく、目標接近時の高度は100mを下回り、レーダーによる探知を難しくします。
低空飛行時に探知できない場合、地上の迎撃隊はエンジン音を聞き、その方角を探し当てるそうです。たとえば、シャヘド136は独特のプロペラ音を生み、ウクライナ側は「スクーター音」と表現しています。そのスクータ音を頼りながら、機体を見つけて撃破する仕組みです。
「数の暴力」で圧迫
さて、シャヘド136の利点といえば、その圧倒的なコストパフォーマンスです。
爆弾そのものに翼を付けたうえ、エンジンを加えた単純な構造を持ち、入手やすい民生部品を使用しています。その結果、製造コストは多く見積もっても、1機あたり約700万円にすぎず、ミサイルとは比べ物になりません。
この生産性を活用すれば、一度に数十機単位の「群れ」で放ち、数百機の波状攻撃を仕掛けながら、相手の防空システムを飽和できます。
これを防空ミサイルで対処すると、1発あたり数千万円はかかってしまい、費用対効果では全く割に合いません。だからこそ、コスト面での非対称性を是正すべく、ウクライナは小火器や対空機銃を使い、迎撃コストを抑えようとしています。
ただ、一度に数百機が飛来してくる限り、さすがに全ては撃墜できず、「数の暴力」が効いている状況です。
しかも、シャヘドは「囮(おとり)」としても働き、相手の防空網を撹乱・圧迫することで、本命の巡航ミサイルを通しやすくします。シャヘドに迎撃能力を割く分、巡航ミサイルに使えるリソースが減り、結果的に突破できてしまう形です。
シャヘドも脅威である以上、無視するわけにはいかず、数百機単位で襲来したならば、なおさら対処せねばなりません。したがって、防衛側は厳しすぎる現状、優先順位の選択に直面します。
シャヘドに限らず、相手に冷酷な選択を迫り、対処能力を飽和させる点こそ、最大の脅威かもしれません。
シャヘドは先端技術の塊ではないものの、「安く、大量に、遠くへ」という特性を組み合わせた結果、防空システムにとって厄介な存在になりました。高い精密兵器が主役だったところ、全く違うロジックを戦場に持ち込み、現代の戦争の形を問い直したといえます。
ロシアが都市部やインフラ設備を狙うなか、その脅威はウクライナにとどまらず、開発国のイランが中東で多数を放ち、イスラエルと米軍基地を攻撃してきました。
さらに、構造がシンプルであるがゆえ、技術拡散で類似兵器が登場しており、ある意味で兵器革命を起こしました。


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