検討は始まった?
安全保障環境の悪化を受けて、日本では原子力潜水艦(原潜)に注目が集まり、その保有を巡る議論が再燃しました。
原潜の利点については、以前の記事で解説したとおりですが、今回は日本の保有に焦点をあてながら、その長所・短所、必要性を考えます。
結論から先に言うと、原潜導入は作戦期間の大幅向上など、無視しがたい利点はあれども、いまの潜水艦隊の強みと現状をふまえると、デメリットが上回ると思います。
防衛省は2025年に有識者会議を開き、次世代動力研究の報告書をまとめました。そして、高市政権で小泉進次郎氏が大臣に就き、次世代潜水艦の動力システムを巡り、「原子力を排除しない」と言明しました。
同じ潜水艦関連でいえば、反撃能力(敵地攻撃能力)の保有に向けて、潜水艦発射型ミサイルの開発に取り組み、試験用の潜水艦を運用している状況です。
しかし、潜水艦からミサイルを放つ以上、長期潜航で位置を秘匿せねばならず、動力源の問題は避けられません。バッテリーで潜る通常動力型に比べると、原子力潜水艦は潜航期間が長く、報告書の「次世代動力」は原子力を指しています。
すなわち、原潜保有の可能性を念頭に置き、少なくとも頭の体操は始めました。
ここで注意したいのが、日本が想定する原潜は「核兵器」は積まず、あくまで動力源に核を使う点です。詳しく説明すると、核抑止力を担う戦略ミサイル原潜(SSBN)ではなく、攻撃型原潜(SSN)を想定しています。
法的・国際的な障壁
では、実際に保有する可能性は?
まずは憲法との整合性ですが、従来の政府見解によると、日本は「攻撃型兵器」を持てず、攻撃型空母と長距離爆撃機、大陸間弾道ミサイルが含まれます。
ところが、これは時の内閣の「解釈」で変わり、現に海上自衛隊は「いずも型」軽空母を持ち、陸上自衛隊は射程3,000kmの弾道弾を保有しました。しかも、原潜は前述の政府見解には入っておらず、将来的な検討の余地を残しています。
しかし、原子力基本法と照らし合わせると、日本の原子力利用は「平和利用」に絞り、原潜保有はこれに反すると言わざるをえません。
ただし、これも一定の留保が付いており、政府見解では一般的に原子力利用が進み、船舶の推進機関として十分に普及すれば、自衛艦も同様に利用できる解釈です。言いかえると、民間船の多くが原子力を使うようになると、海上自衛隊も使って構わないという論法です。
されども、現時点では民間船の原子力利用は少なく、原子力基本法や原子炉規制法の改正は避けられません。法改正は憲法よりは難易度が低く、情勢次第では実現できるしょうが。
さらに、原潜保有は国際社会を巻き込み、国際原子力機関(IAEA)、核不拡散防止条約と日米原子力協定が障壁になります。
核不拡散防止条約(NPT)を読むと、核兵器への転用を禁止しているものの、原子力艦艇の保有は禁じていません。核兵器に転用さえしなければ、日本が原子力を艦艇の動力源に使い、原潜を保有しても条約違反にはなりません。
一方、日米原子力協定はNPTとは違い、核兵器の開発・転用は言うまでもなく、「いかなる軍事的目的」の利用を禁じています。この軍事的目的には原潜も入り、日米原子力協定の内容に基づけば、日本は原潜を保有できません。
ただ、これも日米間で改定交渉を行えば、保有への道は開けます。以前はともかく、いまのアメリカは対中国の戦略において、日本との軍事同盟が欠かせず、むしろ日本の防衛力増強を推す立場です。
それゆえ、日本の原潜保有がアメリカの国益に適い、対中国で米軍の優位性を補完する限り、原子力協定の改定はあり得るでしょう。特にトランプ政権は「振れ幅」が激しく、従来の枠にとらわれないため、原潜保有を認める可能性はあります。
似た事例を探すと、隣国の韓国も原潜保有に動き、アメリカで建造する条件の下、トランプ政権から承認を得ました。韓国の原潜は対北朝鮮用とはいえ、その影響は日本にもおよび、国内世論のハードルをさらに下げるでしょう。
オーストラリアでも原潜計画が進み、IAEAの規定とNPTの内容を守り、アメリカの同意さえ獲得すれば、SSNタイプは保有できると証明しました。
日本もIAEAとアメリカの説得に力を注ぎ、核兵器を搭載しないSSNに限れば、韓国・オーストラリアのように保有できるはずです。
コメント