運用面での課題
さて、政治的・法的な壁をクリアしても、次に運用面での課題が避けられません。
最大の問題は海自の人手不足であって、原潜はそれを加速させるリスクがあります。
少子化にともなって、常に艦艇乗組員が足りておらず、特別な資質がいる潜水艦はなおさらです。潜水艦隊は16隻から22隻に広がり、ようやく人集めを終えたにもかかわらず、ここで新たに原潜を導入すると、せっかくの22隻体制が崩壊します。
一般的に原潜は通常動力型より大きく、各種システムの複雑化にともなって、約2倍の乗員が必要です。また、新たに原子力機関を導入すれば、これまでの経験値は通用せず、原子炉を扱える専門人材の育成、その教育システムと特別な訓練施設が欠かせません。
さらに、建造費は通常動力型の約7〜8倍にのぼり、原子炉の廃棄費用を加算すると、最終的なコストはもっと高くなります。
いまの海自にそんな余裕はなく、現状の戦力維持がやっとのなか、ノウハウのない原潜の導入は負担を生み、潜水艦の運用数を大きく減らすだけです。
他方、フランスの原潜に目を向けると、サイズ感は海自の通常動力型と変わらず、乗員数も80人程度に抑えています。このあたりは「やり方」で変わり、いまの海自の厳しい人的資源でも、工夫次第で運用できるかもしれません。
本当に導入するならば、無人潜水艦の運用を同時に行い、人的資源を原潜に回すべきでしょう。無人潜水艦であれば、基本的には遠隔コントロールで済み、実際に乗り込む状況と比べて、求められる能力は高くありません。
「資質」の観点でいえば、現在よりは人員確保のメドが立ち、最新のAI技術と組み合わせたら、さらなる自動化・省人化を図れます。その分、素質ある潜水艦乗りは原潜に送り込み、人的資源を少数の高価値兵器に集約するわけです。
されど、それは有人の通常動力型を捨てる、または数を大きく減らすことになり、日本が誇る長所を失ってしまいます。
日本の強みをないがしろにしてまで、果たして原潜を選ぶべきなのか?
そもそも必要なのか?
原潜は長期の作戦遂行能力に加えて、水中航行力が30ノット(時速55km)と速く、燃料の補給がいりません。米海軍のように数ヶ月の任務に就いたり、敵の艦隊と原潜を追い回す方針だと、SSNの潜航能力・高速航行力は役立ちます。
一方、海自は潜水艦を重要海峡に置き、日本近海で待ち構えてきました。つまり、海自潜水艦は待ち伏せ、あるいは後方を撹乱しながら、機を見て敵を攻撃するのが主任務です。
活動範囲が限られている場合、通常動力型の速力でも間に合い、静粛性と費用対効果では有利になります。そして、この基本戦略が変わらない限り、政治的・技術的ハードルに挑んでまで、あえてSSNを選ぶ理由はありません。
もし中国が台湾に侵攻したら、台湾海峡とバシー海峡、与那国-台湾間などの「狭い海域」が焦点になり、結局は海峡封鎖に近い状況になるでしょう。海峡封鎖に高速航行力は必要なく、潜航期間の問題は交代艦の用意で済みます。
もっとも、この運用構想が覆るならば、話は変わってきますが。
政府があげる検討理由のうち、通常動力型に難しい任務は2つです。
- 潜水艦発射型ミサイルの運用
- 「いずも型」軽空母の護衛
1点目に関して説明すると、大型のミサイルを搭載する場合、船体の大型化は避けられず、ミサイル発射後は高速航行で逃げるため、確かに原子力潜水艦の方が望ましいです。
さはさりながら、原潜は十分条件であって、必要条件ではありません。大きさと搭載数は限定されますが、通常動力型でもミサイルを運用可能です(実際に試験中)。
2点目の空母護衛の方が理由として重く、こちらを念頭に置いたと思われます。
高価値目標の空母は敵に狙われやすく、空母艦隊には潜水艦が付き従い、海中での護衛してきました。空母艦隊の随伴には高速航行力が欠かせず、通常動力型でも不可能ではないとはいえ、やはりSSNの方が適任なのは否めません。
これまで日本は空母を持っておらず、SSNの護衛はいらなかったものの、「いずも型」の空母化で前提が変わり、潜水艦の直衛が必要になりました。
加えて、近年は海自の活動範囲が広がり、南シナ海まで艦隊が進出するなど、先ほどの前提条件が変わりつつあります。相手の勢力圏に入り込み、長期間の活動するとなると、確かに通常動力型ではもの足りず、逆に原潜の長所を活かしやすいです。
まとめると、海峡封鎖に主軸を置き、ミサイルを発射するだけなら、わざわざ原潜を保有するほどではなく、建造から戦力化までの苦労を考えると、費用対効果ではデメリットが上回ります。
他方、「いずも型」の改修で事実上の空母艦隊を持ち、高速航行できる潜水艦の必要性が浮かび、以前よりは原潜の需要が高まりました。あくまで空母の護衛が主目的ならば、日米共同作戦を理由に米海軍に任せるなど、別の方法を模索できないものか。


コメント